「な…れ…」
「み…とお…よ…」
「っ…」
朦朧とする意識の中に音が入ってくる。
それは次第に意味を為す言葉となって俺に届くようになる。
「変な薬…殆ど目覚め…動く体力…無い…」
新羅と、シズちゃん…。
動け、俺の身体。
動け、動け、動けっ!
Demise side臨也
「…もう永くない。だからそっとして…あげて…最期くらい…」
「勝手な、こと…言わないでよ」
動くことを拒む身体を無理矢理動かす。
「…臨也…何してるのさ!?」
新羅が叫ぶのを無視して腕に刺さってる点滴用の針を無理矢理引き抜いて、枕の下に置いてあるナイフをシズちゃんの腹に突き刺す。
でも化け物の身体にナイフは刺さらない。
いつもなら5ミリは刺さるのに、全く刺さらない。
それは俺が弱っているのを表していて、シズちゃんが驚いたような、憐れみを込めたような目で見る。
それが嫌で、俺は何度もナイフを突き立てる。
「…ねよ…死ねよ、化け物!!俺を憐れなモノを見るような目で見るなっ!!」
何度も、何度も、何度も、何度も突き立てる。
それでも結果は同じだ。
「…」
「はぁっ…はぁ…本当に、嫌な身体だよね…」
ふらふらする。
醜態を晒したくないのに。
「新羅、部屋から出てくれねぇか?」
シズちゃんの言葉に耳を疑ってシズちゃんを見るけど、新羅の方を向いているせいで表情が見えない。
「何言ってるんだい?君達を…」
「新羅、俺からも頼むよ」
新羅の言葉を遮って言えば、新羅は俺とシズちゃんを交互に見た後、ため息をついた。
「…わかった」
そう言って新羅が部屋から出ていくと、俺は目を閉じて大きく息を吸い込んでから目を開けた。
呼吸を整えて、身体が自分の意思で、意思通りに動くことを確認してから口を開く。
「…シズちゃん、今日だけは君に感謝するよ」
「本当にもう永くないのか?」
「…ははっ!シズちゃんにそんな事聞かれるとはねぇ…見なよ
」シズちゃんの言葉に一瞬だけ驚くけど、俺はそのままインナーの袖を捲る。
きっとシズちゃんには一生縁の無いだろう酷い痕がそこに無数にあって、それを見たシズちゃんが表情を歪める。
「何だよ、ソレ」
「注射痕だよ。簡単に言えば理性を失わせて壊すための薬…それを原液のままかなりの量入れられてね…発狂して壊れなかったのが自分でも不思議だよ」
あの時、俺は俺が壊れるのを覚悟した。
苦しくて、悔しくて、死んだ方がマシだと思った。
それと同時にそんな事を考えた自分を許せなかった。
それでも俺は生き残った。
俺は俺のまま生きている。
だけど、身体は自由に動かなくなっていた。
機械で生かされ続けて、回復の見込みも無い生に意味なんて無い。
「まぁ、それだけじゃないんだけどねぇ…他に聞きたいことは?」
「…ねぇよ」
「そう。じゃぁ始めようか」
袖口に隠してあったナイフを取り出して構える。
「あぁ」
シズちゃんの低い声を聞いて、ナイフを投げる。
投げられたナイフをシズちゃんは簡単に素手で弾いて、その間に距離を詰めてナイフを振るうけど当たらない。
しかも、油断しているつもりなど無かったのに、シズちゃんに首を捕まれて床に叩きつけられる。
「っ…」
「終わりだ、イザヤ」
「うん…」
俺の中から壊れる音がして、力が抜ける。
シズちゃん、俺は君が好きだった。
始めは興味で、それが愛情に変わって、憎悪になった。
早く死んでほしいと思いながら俺以外がシズちゃんを殺すことが許せなくて、シズちゃんを殺す努力をしたけど無駄だった。
好きだ、好きだ、好きだ。
でも絶対に手に入れられない事はわかってた。
仕事でドジを踏んで、死にかけて、最後はシズちゃんと戦って殺してもらえて…最低な俺にとって多分最高の死に方だ。
だってシズちゃんは大嫌いな俺でも殺してしまった事を一生引き摺るから。
俺はある意味でシズちゃんの永遠になるんだ。
シズちゃん、シズちゃん、わかってて俺を殺してくれてありがとう。
愛してる…よ。
2012.08.26
side静雄
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