「ねぇ、そこの黒服の人、君達のボスはどこなの?」

「ボスなら今車で向かってるさ。直ぐに着く」

イライラした口調で尋ねる雲雀に少し苦笑し、ロマーリオは返事を返す。

雲雀は待たせる事は良くても待つ事が嫌いだ。

とはいっても基本的に時間に正確な雲雀は人を待たせる事も殆ど無い。

その代わり、5分前集合などは絶対にしないが。


Valentine'sDay


2月は暦の上では春だとはいえ、まだまだ真冬で、その真冬の夕空の下で待たされるのは誰だって好まない。

学校の門に背を預け、雲雀は寒さに震えた。

ディーノから用があるから放課後の4時に並森中の校門前で待っていろという電話が来たのは夜中の12時近くだった。

普段雲雀の携帯に電話が来るのは風紀委員の中でもごくごく僅かな者だけだった。

その風紀委員も夜遅くなれば雲雀に電話をかけることなどしない。

雲雀の機嫌を損ねたいとは思わないからだ。

なのに、ディーノはいい歳をした大人であっても普通にくだらない用事で夜中に雲雀に電話をかける。

日本とイタリアの時差を考えろと雲雀は過去に何度も言っていたが、成果が出たためしは無い。

今回も雲雀が眠っていると突然着歌の並中校歌が鳴り響いたのだ。

雲雀は勿論すぐさま眼を覚まし、携帯ごしのディーノに向かって散々悪態をついたのだが、ディーノには堪えていなかった。

へんな時間に起こされたせいでその後は全然眠れず、雲雀は寝不足なのだ。

それも雲雀の苛立ちに拍車をかけていた。


「ボスがきたぜ」

ロマーリオの言葉に無言で視線だけ動かすと黒塗りのベンツが雲雀の目の前で止まり、中からディーノが笑いながら降りてくる。

「悪ぃ、悪ぃ」

「わざわざ僕を呼び出しておいて遅刻とはね…咬み殺すよ?」

「まぁまぁ」

始終笑いながら話すディーノを雲雀は好意的には見られない。

悪かったと思うのならば態度で示すのが普通だ。

「じゃぁ俺達は一服してくるぜ、ボス。後はしっかりやれよ」

そう言うとロマーリオはディーノが出てきたベンツに乗り込み、どこかへ行ってしまった。


車が完全に視界から消えるとディーノは雲雀に向き直る。

「今日は恭弥にプレゼントがあるんだ」

そう言ったディーノの手には白い箱がある。

「プレゼント?」

今日は何かあっただろうかと雲雀は考えるものの、誕生日でもなく、特に思い当たる事はない。

「あぁ。これだ」

「…」

「開けてみろよ」

「…」

警戒心を持ちつつ、雲雀は白い箱に巻かれたリボンを解いた。

「何コレ」

「チョコレ−トケ−キ。俺が作った自信作だぜ」

「いらない」

「何でだよ!美味いぞ!」

箱をディーノへと突きつける雲雀にディーノは驚く。

ディーノは雲雀が貰ってくれるのが当然だと思っていた。

「あなたに物を貰う理由が無い」

「師匠が弟子に物あげちゃいけないのかよ」

「おかしな事を言うね。いつあなたが僕の師匠になったの?」

「指輪争奪戦の時にコ−チしてやったじゃねぇか」

「ただ戦ってただけでしょ。寝言は寝て言いなよ」

「つれねぇな」

苦笑いをするディーノに雲雀は踵を返す。

「用がそれだけなら僕は帰るよ。まったく、時間の無駄だね」

「なっ!待てよ、恭弥!」

「煩い」

肩を掴んだディーノの手を雲雀は勢いよく振り払う。

その勢いと路面の凍結によってディーノは足を滑らせ、腰をおもいっきり打ち付けた。

雲雀は後ろから聞こえる音に後ろ髪を引かれる事など全く無く歩いていたが、直後聞こえたディーノの絶叫に流石に振り返った。

「あぁぁぁぁっ!!」

「今度はな…」

「恭弥ぁぁぁ!!」

べチャッ

ディーノが逃げろと言うより早く、雲雀の頭に何かが落ちた。

「ぁ…」

「………」

「き…恭弥…」

「…」

雲雀は頭の上に落ちた物が先程までディーノが持っていたチョコレートケーキである事を瞬時に悟ると、 無言でトンファーを取り出す。

「待て、落ち着け!」

ディーノの言葉など完全に無視し、雲雀はディーノにゆっくりと近づく。

そして、無言でトンファーを思いっきり振り上げた。


「っ…もっと優しくやってくれよ」

「ボスが恭弥を怒らせたのが悪いんだろ?」

苦笑しながらディーノの傷の手当をしているロマーリオにそう反されればディーノは何も言えなくなってしまう。

「コケて折角作ったケ−キを無駄にするなんてボスらしいぜ!」

「笑うなうよ!」

豪快に笑う部下のボノは心底楽しんでいるようで、ディーノは少しだけ惨めな気分になってしまう。

そんなボスの様子を見かねたロマーリオがディーノを励ます。 「口には出さないが、恭弥だってきっと喜んでるさ」

「だといいけどなぁ…」

雲雀のキレっぷりを思い出したディーノは本当に期待薄そうだと心の中で思った。


見事にディーノのチョコレートケーキを頭に被った雲雀は自分のマンションへと戻るとすぐさまシャワーを浴びるために浴室へと 向かった。

シャワーを浴び、部屋へと戻る雲雀を愛鳥が出迎える。

「オカエリ、オカエリ」

「…」

「キョウヤおかえり」

それまで何の反応も示さなかった雲雀が反応を示す。

「雲雀だっていつも言ってるでしょ」

「ヒバリ、ヒバリ、キョウヤ」

雲雀の言葉に鳥はヒバリ、ヒバリと繰り返すが、どうしても途中で【キョウヤ】と呼んでしまう。

「まったく…君もあの男のせいでたまに僕を【恭弥】って呼ぶようになってしまったね」

雲雀の言葉に鳥は肯定を表すかのように一鳴きした。

「まぁ、君達なら…たまには良いけどね」


ディーノに名前を呼ばれるいう事を良しとしていなかったのに、気付けば名前で呼ばれるのがそれほど嫌ではなくなっていた。

それが人間の持つ慣れという力だと信じて疑わない雲雀の認識がかわるのはまだまだ先の事。



2008.02.14