「恭弥!」
ガッ
「近寄らないでくれる?」
近寄ろうとしたディーノを雲雀はトンファーで制す。
「ひっでーな。折角師匠が特訓を早く終わらせて、お前に美味い飯食わせてやろうと思ったってのに」
「誰が僕の師匠なの?それに、別に貴方に奢って貰う必要は無いんだけど」
「そう言うなって。可愛い弟分の大事な部下で、俺の一番弟子。奢る理由は十分じゃねぇか」
「貴方の頭は飾り?それのどこが理由なわけ?」
「まぁ良いから良いから。表に車回してもらったんだ」
楽しそうに笑いながら早くこいよなんて言っているディーノを雲雀は見、溜息をつく。
尚も雲雀の名前を呼び続けるディーノに諦めたのか、雲雀はゆっくりと車に向かって歩き出した。
La battaglia decisiva notte precedente
「ねぇ」
「何だ?」
「車ってコレ?」
「そうだけど、どうしたんだ?」
表に回されていた車は派手な赤いスポーツカー。
雲雀はその事に軽く頭痛を覚えたが、どうとでもなれといった投げやりの態度で車に乗り込んだ。
「・・・もういい。早く車出して。さっさと食事して帰って寝るから」
「・・・はいはい」
「何笑ってるの?気色悪い。咬み殺すよ」
「き・・・気色悪いってお前なぁ!」
「何してるの。車、出して」
「・・・(女王様かよ)」
雲雀から発せられた言葉の一つ一つに様々な感情を抱きつつ、ディーノは車のアクセルを思いっ切りふかす。
違法に改造されているのかどうかは定かではないが、2人の乗った車は近所迷惑もいいところの轟音を立てて走り出した。
高速道路並みのスピードを出し、2人の乗った車は並盛の道を走り抜ける。
隣町である黒曜との境目近くの綺麗な店で車は止まった。
「ここだぜ。恭弥に本場のイタリア料理を食べさせてやるぜ・・・っていねぇ!!」
てっきり助手席でスピード酔いでもしていると思っていたディーノは雲雀が助手席にいない事に驚く。
「何してるの、早く」
さっさと車から降りていた雲雀は店の前で少しイラついた様子で言う。
ディーノの荒い運転が気に入らなかったらしい。
「いらっしゃいませ、ディーノ様」
「久しぶりだな。元気だったか?」
店の中に入ると初老のオーナーが2人を出迎える。
ディーノとオーナーは顔なじみのようで、笑いあいながら話をする。
ふとオーナーが雲雀を見て、ディーノに
「失礼ですが、この方は?」
と聞く。
「俺の一番弟子だ」
「ディーの様の・・・それは大変失礼いたしました」
「・・・」
その応えに雲雀は少しムッとする。
並盛の秩序たる自分を知らないばかりか、『ディーノの弟子』という形で覚えられ、『ディーノの弟子』だから敬意を表されている
かと思うと当然面白くない。
そんなことを考えながらも席に着き、渡されたメニューを見ながらディーノが雲雀に聞いてくる。
「えっと、俺はいつもので・・・恭弥は?」
「何でもいい」
「じゃぁ恭弥にも同じのを」
「畏まりました」
オーナーがメニュー表を持って立ち去ると、雲雀は面白くなさそうに言う。
「ディーの様なんて呼ばれてるんだ」
「まぁな」
「様付けで呼ばれるほどじゃないと思うんだけどね」
「それは嫌味なのか?」
「そう思うのならそうなんじゃないの?」
「くっ・・・」
雲雀がいつもの調子で少し嫌味っぽく言えば、ディーノは嫌そうな顔をする。
部下がいないところではディーノの身体能力は極端に下がる事をよく知っている雲雀だからこそ、そういった意味で
言っているのだ。
その事を察知できないほどディーノは馬鹿ではない。
だから簡単に反論も出来ない。
何か言おうとディーノが考えていると
「お待たせいたしました」
と言って現れたオーナーが現われた。
その手には1本の年代物の赤ワイン。
オーナーは先に雲雀のグラスにワインを注ぎ、次にディーノのグラスに注ぐ。
「失礼いたします」
そう言うとオーナーは静かに去っていった。
「ちょっと」
「何だよ」
「僕は未成年なんだけど、何でワインが僕の分も注がれてるわけ?」
「あぁ、安心しろ。ここの店には警察もうかつに手を出せねぇから」
「警察は僕の言いなりだよ。それに、僕が言いたいのはそんな事じゃない」
「じゃぁ何だよ」
もともと口数の多いほうではない雲雀は直接的に言葉を喋らない場合がある。
雲雀の言っている意味をきちんと掬い取る事はディーノには難しかった。
「・・・あなたと話してると疲れる」
「なっ!?酷ぇ!!」
流石に今の台詞には傷ついたのか、ディーノが大声で反論すれば
「煩いよ。咬み殺されたいの?」
そう言いながら雲雀がトンファーを構える。
「おいおい、食事時にトンファーなんか出すなよ」
「・・・」
「お待たせいたしました。前菜でございます」
まるでタイミングを見計らったかのように登場したオーナーによって雲雀の戦意は失われ、雲雀はトンファーをしまい、
椅子に座りなおす。
「前菜が・・・パスタ?」
てっきりサラダがくると思っていた雲雀はテーブルの上に置かれているパスタを見てすこし眉をひそめる。
「イタリアではな」
「ふぅん。まぁ、別にいいけど」
多少驚きはしたものの、大した問題も無いので、雲雀はそのまま食べはじめた。
「は〜、美味かった」
「僕はあなたの食べ方で食欲が削がれた」
「わ・・・悪かったなっ!!」
呆れきっている雲雀の視線にディーノは自分自身が嫌になる。
ファミリーの前でないと運動神経が極端に落ちるのは雲雀も知っている事だが、まさか食事マナーまで悪くなるとは
知らなかったに違いない。
実際雲雀と稽古をしている時に食事をするときはロマーリオが傍にいた。
部下がいるのでディーノの身体能力は落ちない。
なので、雲雀がその事を知っているはずが無かったのだ。
「何であんなにボロボロこぼせるの?あなたは子供?」
「ファ・・・ファミリーの前ではちゃんとしてるんだぜ!!」
「そう」
「・・・」
どうでもいいという雲雀の視線にディーノは更に自分が嫌になる。
部下を1人連れて来ればよかったかとも思うが、ディーノは雲雀と2人きりで食事したかったのだから、それは出来ない。
自分の不甲斐なさにディーノが頭を抱えたくなっていると
「デザートをお持ちしました」
と言いながらオーナーがやって来た。
「サンキュー」
なるべく明るい声でディーノが答える。
「お好きなものをお選びください」
「じゃぁ俺はコレ」
「僕はコレ」
「それではお楽しみください」
オーナーが去ったのを確認してからディーノはデザートを食べはじめる。
「やっぱりここの料理は最高だなぁ。デザートまで美味い」
「そう・・・」
雲雀の相変わらず素っ気無い態度にディーノはちょっとした悪疑心を起こす。
「・・・恭弥のソレも一口くれ」
「あ、ちょ・・・」
雲雀の返事も聞かずにディーノはパクッと雲雀のデザートを口の中に入れる。
「うん、美味い」
「はぁ・・・。本当にあなたは子供?食い意地張りすぎ」
「怒るなって」
「呆れてるんだよ」
「俺のも一口やるから」
「いらないよ」
「遠慮するなって」
「いらないったら・・・」
いらないと言う雲雀の腕を掴み、ディーノは自分のデザートを雲雀の口に放り込む。
「・・・」
「美味いだろ」
「僕はいらないって言ったんだけど・・・」
ふてくされている様な雲雀にさらなる悪疑心が湧いたディーノはわざとらしく声をあげる。
訝しげに自分を見てくる雲雀を確認した後、ディーノはいつものように笑いながら言った。
「間接キスだな」
ドゴッ
ガシャァァァンッ
ゴトンッ
直後雲雀が今まで座っていた椅子から立ち上がり、ディーノの座っている椅子を蹴る。
その振動によってテーブルの上にあったグラスや皿、ナイフやフォーク、一輪挿しなどが落ち、床で大きな音を立てる。
ディーノは雲雀に椅子を蹴られたせいで床にしりもちをつく。
「・・・咬み殺す」
そう言いながらトンファーを構えた雲雀は怒りに満ちていた。
「きょ・・・恭弥・・・?ちょ、待てって・・・」
ディーノは冷や汗をダラダラと流し、自分の行動を悔いるが、時は既に遅し。
「死になよ」
そう言って雲雀は容赦なくトンファーを振り下ろした。
「恭弥・・・いよいよ明日だな」
「・・・」
「いい加減機嫌直せって」
「・・・」
先ほど切れて暴れまくった雲雀は落ち着きを取り戻してはいたものの、機嫌は悪いままだった。
「さっきのは確かにちょっとからかい過ぎたって思ってる。悪ぃ」
ディーノは背後から軽く雲雀を抱きしめる。
それに対しての雲雀の反応は無い。
「・・・」
「兎に角、死ぬなよ・・・」
「・・・誰に向かって言ってるわけ?僕は雲雀恭弥、波盛の風紀委員長にして最強の存在だよ。負けるわけ無いでしょ」
「あぁ、そうだな」
雲雀の普段と何一つ変わらない姿にディーノは嬉しくなる。
「・・・」
「明日の試合が終わったらまた美味いもん食いに行こうな」
「・・・日本料理なら考えてもいいよ。貴方が箸がまともに使えること前提だけど」
「うっ・・・」
「じゃぁね」
そう言うと雲雀はスルリとディーノの腕の中からいなくなり、自分のマンションへと入っていった。
「本当にじゃじゃ馬だな・・・だが、死ぬなよ」
ディーノの呟きにも似た言葉が雲雀に届く事はなかった。
2006,10,20
『La battaglia decisiva notte precedente』はイタリア語で『決戦前夜』
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