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異常気象の影響で5月だというのに並盛に桜が咲き誇る。

それだけにとどまらず、雪もしんしんと降り注ぐ。

美しく咲き乱れる桜と、光を反射して輝く雪。

普段ではあり得ない光景が幻想的な世界を作り出す。 そんな景色を雲雀は暖かな部屋の中から眺める。

曜日に囚われない雲雀は、例年であれば並盛中学で風紀委員の仕事をしているか、並盛町を見回っている。

しかし、季節外れの雪のせいで雲雀の愛車である黒いバイクは本来の役目を果たさないうえに、気乗りがしなくなったため、雲雀は家の中にいる。

不本意ではあったものの、普段見ることなど出来ない光景は存外雲雀を惹き付けた。



雪桜



漆黒の着物に金の刺繍が施された真紅の帯。

同じく真紅の番傘を片手に持ち、雲雀はゆっくりと庭へと降り、新雪に下駄の足跡を残しながら1歩、また1歩と桜の樹へと近付く。

淡い色の世界に殊更の存在感を放つ雲雀は、幻想的な世界からは浮いた存在であるにも関わらず、不思議とどこか溶け込んでいた。

パタパタという羽音が頭上から聞こえるものの、雲雀は存在を確かめることはせず、だまって桜を見続ける。

雲雀の雰囲気が普段と少々異なるのを敏感に察知したのか、雲雀の愛鳥は普段と違い ヒバリ と呼ぶことなく黙って雲雀の肩へととまる。

雲雀は視線を移すことも、何か喋る事もなかったが、さしている番傘を少しだけ傾け、愛鳥に雪が降り積もらないようにした。



日頃なら感じることが出来る生物の存在も、大気の暖かさも、何もかもが感じられない。

暫くすると、そんな静寂は破られた。

「…」

「チュンッ」

「…寒いの?」

「ピィ…」

雲雀が指のはらで愛鳥に触れれば、その身体は予想外に冷たく、表情こそ変わらないものの、内心で驚く。

雲雀は他者と比べて暑さや寒さを感じ難い。

それは一般的な人間と比べて感覚神経自体が少ないからであると同時に、感覚を脳に伝え難いからである。

それ故に雲雀は戦闘中にそれなりの傷を負ったとしても、立ち上がって動くことが出来る。

尤も、体温の上昇・低下に気付き難かったり、免疫力が多少劣っているというデメリットもあるのだが。

愛鳥をそっと肩から下ろし、雲雀は素早く室内へと戻ると、愛鳥を火鉢の傍の自身の座椅子の上へと下ろす。

「ヒバリ…」

「黙りなよ」

「ピィ…」

言葉こそ冷たいが、声の調子は決して冷たくない。

それを敏感に感じ取ると、愛鳥は静かに瞳を閉じた。





2013.5.31