「trick or treat」

「何?」

「お菓子」

「?」

「お菓子くれないの?」

「何で?」

「今日はハロウィンだから」


Trick or Treat


「…あぁ」

言われてはじめて雲雀は今日がハロウィンだと気付く。

並盛のいたる所に飾られたカボチャのモニュメントも、店の飾り付けも、ハロウィン商品も、雲雀の視界に入ってはくるものの、 興味がなければどうという事はない。

現に、目の前にいるクロームの格好が普段と明らかに違っていようとも、発せられた言葉の意味を理解しようとも、 それをハロウィンと結びつけるのは雲雀には不可能だった。

「で、それは何なの?」

あえて、骸に何を言われたのかなんて愚かな問いはしない。

雲雀にとっては目の前にいるクロームが問題だった。

外見はあまり気にしない雲雀でも、流石にどうだと思うクロームの格好。

獣耳に尻尾、薄い紫のドレスに、フリルがついたエプロン。

しかも、胸元は大きく開いている。

「猫娘」

クロームの言葉に、猫娘は日本の妖怪で、西洋のものじゃなかったはずだ。西洋に猫娘がいたとして、その格好は 明らかにおかしいって何でわからないの?など、疑問が雲雀を襲う。

しかし、それはたった1言で片付けられるのだ。

変態六道骸だから。

雲雀とて、クロームが好んでその服を着ているなんて思っていない。

骸がクロームに着させているというのはわかっていた。

「そう。それで、僕に何の用?」

「trick or treat」

最初に雲雀にかけられた言葉をクロームは再度言う。

「…」

「お菓子くれないと、イタズラする」

クローム1人の悪戯など雲雀は怖くもないが、どう考えてもバックについているのは骸である。

骸に何かされるかと思うと、恐怖はわかないものの、嫌悪感がわく。

「ちょっと待って」

雲雀はどこからか飴玉を取り出すと、それを手を出していたクロームの手のひらにのせた。

「ぁ…」

「…」

「ぁ…ありがとう」

「…」

嬉しそうに微笑むクロームの姿を雲雀は初めて見た。

ある意味骸自身であるクロームに純粋な好意を向けられ、雲雀は一瞬困惑する。

「雲雀恭弥」

「…」

「本当にありがとう」

それだけ言うと、クロームはくるりと方向転換をして、どこかへ走っていった。


「…六道骸」

クロームがいなくなった後、雲雀は独り言のように呟いた。

「クフクフ〜」

「…」

気持ちの悪い笑い声と共に骸がどこからともなく現れる。

いつになく上機嫌なのが雲雀にとっては不愉快だった。

「クロームがお世話になりました」

「…」

「クロームがハロウィンをやったことがないと言っていたので」

雲雀が言おうとしている事を素早く悟り、骸は口にする。

「何で僕の所に来させるわけ?」

「君の所がある意味一番安全ですから。君はクロームには手を出さないでしょう?たとえ、どんな感情を抱いていても」

「?」

「ぇ…君、無意識なんですか?」

雲雀の無言に何かを察したのであろう骸がらしくない反応を示す。

「だから、何?」

骸の言動に不愉快感が更に増し、雲雀は骸を睨みつける。

「いえ、こっちの話です。とにかく今日はありがとうございました」

「…」

クローム同様にくるりと雲雀に背を向け、骸は歩き出す。

しかし、数歩歩いたところで立ち止まり、雲雀を見て言った。

「それにしても、並盛最強と名高い君が飴玉とは…笑えますね」

「…殺す」

「今日はやりませんよ。それでは」

「待ちなよ…」

雲雀の言葉など全く聞かず、骸は日に透けるように消えた。


個包装された黄色の飴玉を眺め、クロームは嬉しそうに笑う。

アジトにいた犬に取られそうになったのを必死に守ったのだ。

「来年も…骸様と雲雀恭弥と、今度は犬と千種とボス達ともやりたい」

そう呟いた後、クロームは飴玉を大切そうに鞄の中に入れた。



2008.10.30