並盛の中心地から少し離れた地下にそれはある。

地下にもかかわらず豪勢な建物のそれはボンゴレ10代目雲の守護者、雲雀恭弥の個人的なアジトだ。

ボンゴレの日本本部と一応繋がってはいるものの、その2つのアジトを繋げている扉が開いたことは未だかつて無い。


Un augurio


人の気配の全くしない細長い廊下をゆっくりと歩く。

右を向いても左を向いてもあるのは同じ形をした淡い光を放つ間接照明と壁。

アジトというのは自分達の城であると同時に、攻め込まれたときに敵を攪乱・殲滅する砦。

確かにこの廊下は敵を攪乱するのに適しているでしょうね。

「しかし、ここまで豪華にしなくても良いと思うんですけどね…」

純日本風の建物は一目で主の趣味とわかる。

彼が気に入っていなければわざわざこの建物に住む理由はないし、そもそも工事に着工すらしなかっただろう。

「ですが…ねぇ」

以前来た時の事を思い出す。

確かあれはこのアジトが出来て直ぐだったはずだ。

普通の人間では感覚がおかしくなるのではないかと思うくらい同じものしか見えない廊下を進み、たどり着いた雲雀君の部屋。

そこにまた驚かされた。

何畳あるか数えるのも億劫になりそうなほどの畳が敷き詰められた和室に、庭には日本庭園。

2回ほど前の生の時に戦国時代を体験しましたが、そこにでも来てしまったのかと思いましたよ、本当に。

しかも、置かれている調度品は豪華なくせに部屋にあるのは机と肘掛け、灯り程度。

まったく、作った人間の気がしれませんよ。

雲雀君自身が望んでこのような造りにしたとは流石に思ってはいませんがね。


思考しながらも僕は迷うことなく雲雀君の部屋を目指す。

一見部屋がないように見えるこのアジトにもしっかりと部屋は存在する。

ただ、部屋に行くのには隠し扉や隠し階段を使うとか、スイッチを押すとかで、はっきり言ってかなり面倒くさい。

しかもトラップ付きときている。

まったく、忍者屋敷のつもりですかね…。

勿論そんなものに引っかかるほど僕は愚かではないですが。

反対に、本当に普通に行ける部屋もある。

その一つが雲雀君の部屋だ。

まぁ、この迷路のような廊下を無事に抜ければの話ですけど。


廊下を曲がったところで見えた先に僕は思わず笑みをこぼした。

先まで歩き、ゆっくりと扉を開ける。

座敷に腰を下ろしているのはこの部屋の主にしてこの建物の主、雲雀恭弥。

漆黒の衣を纏い、ただそこに座している。

振り向く気配はない。

僕は苦笑した後、足音を立てないようにしながら雲雀君に近付いた。

雲雀君から5mほど離れて畳に座り、暫くそのままでいると一つの溜息の後、雲雀君が振り返り、言った。

「何の用なの?」

言葉からして、やはり僕が来ているのはお見通しだったようだ。

「用がないと来てはいけませんか?」

「来ないでもらえると嬉しいよ。もし来るなら君自身が来るんだね。それなら歓迎してあげなくもないよ」

「…考えておきます。それより雲雀君、君は戦国大名かなにかですか?まぁ、彼らは自らの財を誇張したがっていましたから、 これほど部屋が簡素ではありませんでしたが」

「見たことあるの?」

「…えぇ。随分前の事になりますが」

「そぅ」

僕の言葉にそれ以上追求する事もなく、雲雀君は人工的に作られた外を眺める。

雲雀君が興味を持っているのはあくまで僕自身だ。

そう思うと嬉しくなる。

「人工の空なんかを見ていて楽しいんですか?」

どれだけの時が過ぎたかわからない。

長いようで、短い時間だったかもしれない。

時計が無いこの部屋で時を感じるのは流石の僕でも難しい。

ただ、僕という存在が目の前にいるにも関わらず、人工物なんかに気を逸らしていることが酷く気に入らない。

だから聞いてみた。

ただ、それだけ。

「楽しい?そんなわけないでしょ。これは人工物なんだから」

「…」

「…相変わらずくだらないことばかり気にするんだね」

「どこへ?」

「…」

僕の言葉など聞こえていないように無言で立ち上がり、雲雀君は少しだけ開き、外の空を僕達に見せていた障子を勢い良く 開け放った。

部屋を満たす光はそれが人工だとわかっていても眩しさを感じさせる。

「何を…」

「よく見ると良い。これは作られたイミテーションだ。池に泳いでいる魚や植わっている植物が本物であろうと、 人の手が加わっているからこそ生きていける」

「雲雀君…」

「生かされているんだよ、これらは」

「…」

「僕は誰かに頼らなければ生きられないほど弱い人間じゃない。誰かに生かされるくらいなら死んでやる」

「…えぇ、そうですね」

雲雀君の言葉をすんなりととらえられる。

僕も随分変わりましたね。

いや、変えられた…と言った方がいいんでしょうか?

「…何?」

僕が変わったとしたら雲雀君のせいだろう。

だけど今はまだ言わない。

それを告げるのは有幻覚ではなく、実体の僕だから。



2008.06.09