「不愉快だ」

唐突に投げつけられた言葉に僕は不覚にも驚いてしまい、そのせいで飲んでいた珍しい桜緑茶が変な場所に入ってしまった。


Sincronizzato nuotando


恨みがましい目で雲雀君を睨むものの、彼はそんなことなど歯牙にもかけない。

「…何が不愉快なんですか」

今まで黙って本を読んでいた雲雀君に問いかけてみる。

邪魔はしていないし、何も不満は無いはずだ。

それとも本の内容が不満だったのだろうか?

「君だよ」

返された言葉が一瞬理解できなかった。

「僕ですか?」

「君だよ」

「…」

第一印象が最悪だったのは認める。

力こそ全てのような性格の雲雀君にとって、敗北を与えた僕が気に入らないのも認める。

だが、年月を経て雲雀君も大人になった。

相変わらず好戦的ではあるが、少なくともこうして彼のアジトにたまに現れる僕をそこに置くくらいはしてくれるようには なった。

もっとも、代償はきちんと払ってはいるが。

そんな微妙な関係なので、良好とは言えずとも、いきなり不愉快発言をされる覚えはない。

「僕の何が不愉快なんですか?」

顔ですか?と続けると思い切りトンファ−で殴られそうになった。

とりあえず避けたが。

「そうですか。じゃぁ何が不愉快なんですか?」

「…君の、思考」

「…」

雲雀君が無茶苦茶なのは元からだが、これはあまりにも酷すぎないだろうか?

僕の思考が不愉快だなんて。

「何くだらないこと考えてるの」

「くだらなくないです。君が失礼なこと言うから落ち込んでるだけです」

「はぁ…」

ぁ、今溜息つきましたね。

雲雀君のせいで落ち込んでるのにその哀れみのような表情はなんですか!

「君さ、本当に止めてくれないかな。君の思考が流れてきて、本当に不愉快なんだけど」

「…ぇ?」

思考が止まるとか、頭が真っ白になるとかはよく言われる言葉だが、この状態がそれを指すのだろうか?

それ程僕は驚き、言葉を無くした。

「…」

「思考が…流れる?」

そういえば前にクロームが似たようなことを言っていた。

あれは彼女が特異体質だからだとばかり思っていたが、実際には違ったのだろうか?

「…」

「僕の思考が君に流れ込む…って…」

「たまに…流れ込んでくる。君がどういう気持ちでいるか…とか」

身に覚えがあるとすれば、たった1つの事。

「…契約」

「契約?」

「僕と君は契約していますから、もしかしたらそのせいかもしれません」

「何それ。僕は知らないよ」

「当然です。君は気絶してましたから」

「…」

雲雀君が不愉快そうに眉をひそめる。

それでも続きを促しているのはわかったので、そのまま言葉を続ける。

「僕達が初めて会ったときのことを覚えていますか?」

「忘れるはずないでしょ」

「そうですね。君にとってはじめての完全な敗北でしたからね」

「…それで」

「君が地下から脱出した後僕に一撃を浴びせた後気絶したじゃないですか」

「…」

否定も肯定もしない雲雀君の姿を僕は肯定と取り、言葉を続ける。

「その後、君が気絶してる間に契約しました」

「どうやって」

「僕の六道輪廻の能力の1つに相手の身体を乗っ取り、技を奪い取るスキルがあるのは知ってますよね?」

「うん」

「それを行うことを僕は契約とよんでいます。この三叉槍で相手を傷つけると契約完了です」

「…」

「それを僕にしたの?」

「はい」

ゴッ

思いっきりトンファーで殴られた。

「痛いじゃないですか」

「幻覚なんだから痛みなんて無いでしょ」

避けようと思えば避けられたが、今回はあえてトンファ−を受けた。

少しは雲雀君の怒りが収まるかと思ったが、どうやら逆効果だったらしい。

「…」

「…契約のことはわかった。それで、どうやったらそれは解けるの?」

「さぁ?」

ヒュッと振り下ろされたトンファ−を持っていた三叉槍で受け止めれば辺りに金属音が木霊する。

「ふざけないでよね」

「ふざけてません」

「…」

雲雀君は苛立ちを隠そうともせずに机に少し乱暴にトンファ−を置き、僕から視線を外す。

「雲雀く…」

「煩い」

「…」

苛立ちを何とか押さえようとコツコツと爪で机を叩く。

珍しく冷静さが無い。

「…それで」

「はい」

「その契約は解けないとして、君の思考を防ぐ手段とか無いの?」

「さぁ…何分珍しい事なので」

「珍しい?」

「クロームとランチアにも似たようなことはありましたけど、クロームは僕が延命させているのでそのくらいあるでしょうし、 ランチアにしても、僕が長年身体を使ってきましたからね。僕の思考が読み取れるくらいにはなるかもしれませんが、 君の場合は…」

「君とそれほど長い時間を共有してきたわけでも、特別君に何かを与えられているわけでもない」

「そうです。与えているのは愛くらいですかね」

「…」

「完全無視ですか。良い度胸ですね」

僕の言葉を完全に無視した後、雲雀君が言う。

「君が思考を流さないようにするのは出来ないの?」

「それは僕に思考するなって言いたいんですか?」

「そう取りたければ取っていいよ」

「無茶言わないでください」

「…」

「そもそも、どんな事を感じ取れるんです?」

これは興味本意だ。

雲雀君は少し考えた後、喋りだした。

「…外はどうなってるとか、逃げる算段とか、ミルフィオ−レの事とか」

「雲雀君が好きとか?」

「…そんな事思ってるの?」

眉間にしわを寄せ、くだらないと言いたげだ。

「思ってます」

「馬鹿だね」

「馬鹿で結構ですよ」

嘲笑される。

「君が好きです」

「僕は嫌いだよ」

「でも僕は好きなんです」

「…」

トンファ−を取ろうとした手を掴み、力を入れる。

男のものにしては細いそれは不気味なほど白い。

「病的ですね」

「何が?」

「君の肌の色です。元々白いとは思ってましたけど、これは少し異常じゃないですか?太陽の光を浴びてます?」

「君に言われたくない」

「それはそうですね。でも、君は随分と白いと思うんですけどね」

「…」

まじまじと雲雀君の腕を見ていたら気持ち悪いと言われる。

雲雀君は僕が何を言われても気にしないとか思ってるんじゃないですかね?

あんまり気にしませんけど。

「まぁ、白い方が好都合ですけどね」

「?」

「赤が綺麗に映えるでじゃないですか」

「?」

「…本当に君はそういう方面に疎いですね。まぁ、変に色々知ってても嫌ですけど」

「さっきから何の話なの?」

「…教えてあげますよ。じっくりと…ね」



2008.06.09