シャカシャカシャカ
コトンッ
「?」
自分の前に置かれたグラスに雲雀が疑問を持った直後、バーテンが声を出した。
「あちらのお客様からです」
バーテンがスッと伸ばした手の先を見れば、明るい金色の髪が視界に入った。
金色の髪の主は雲雀が自分が誰かを認識したことを察すると、ヒラヒラと手を振った。
雲雀は視線を逸らし、自分の前に置かれたグラスを手に取り、口を付ける。
甘い味が咥内に広がる。
グラスを置いたとほぼ同時に雲雀がいるカウンター席の隣の席に先程の金色の髪の主が腰掛けた。
視線をあわせようとしない雲雀に苦笑し、グラスを取り、中に入っているピンク色をした液体を舐めた。
「あまっ!未だにこんなの飲んでんのかよ!」
「煩いよ。あなたが頼んだんでしょ?」
眉をひそめ、雲雀はやっと金色の髪の主…ディーノを見た。
Cocktail 〜dino Ver〜
「『あいつが頼んだのをもう一杯』って言ったからわかんねぇんだよ」
「そう」
ディーノの言葉にさしたる興味を見せず、雲雀は再度グラスに口を付けた。
「…なぁ、恭弥」
「…」
雲雀がカクテルを飲み終わるのを待ち、ディーノが声をかける。
そのディーノを鬱陶しそうに雲雀は見たが、何も喋りはしなかった。
「なぁなぁ恭弥。お前マジでいつもこんなの飲んでるのか?甘ったりぃだろ?お前甘過ぎるの苦手じゃん」
家庭教師と生徒という関係が無くなった後も、ディーノと雲雀は時々会っていた。
仕事で会う以外では、ディーノが雲雀を誘い、2人で主に食事に行っていた。
雲雀と食事を共にする事が少なくないディーノは雲雀の食の好みもよく理解していた。
基本的に和食を好み、濃い味は好まない。
甘いものは嫌いではないが、甘過ぎるものは苦手。
同様に辛いものと苦いものも苦手。
特に好きなのは寿司(特にえんがわ)とハンバーグ。
ディーノが記憶をたぐり寄せている数秒間の間、雲雀は訝しがるようにディーノを見ていた。
その視線に気づいたディーノが雲雀の肩をポンポンと叩く。
当然、すぐさまその手は払われた。
「あなたには関係ないよ」
「…今日は俺が奢ってやるから大人の味ってやつに挑戦してみろよ」
「煩い。僕に構うな」
鬱陶しいと雲雀は全身でディーノを拒絶する。
「ボンゴレ最強の守護者と名高い雲雀恭弥はまだまだ子供だったんだな」
「…」
ピクリと雲雀が反応する。
ディーノはそれを見逃さず、畳み掛けるように言う。
「こんな子供向けみたいな酒飲んでるんじゃな」
「何が…言いたいの?」
「恭弥はまだ子供だって事」
「いいよ。そこまで言うなら」
挑発に乗せられたことなど百も承知だが、雲雀はそれを軽く受け流せるような人間ではなかった。
「じゃぁ、楽しもうぜ」
ニヤリと笑いながらディーノは言った。
「…はぁ」
ディーノは目の前の光景に失敗したと溜め息をついた。
計画では、あまり酒に強くないと思われる雲雀に、口どけは良いが、後で簡単に意識を混濁させるほどの強いカクテルを
飲ませて楽しむというものだったのだが、雲雀はディーノの想像以上に酒に弱く、プライドが高かった。
『ウイスキーのロック』
雲雀から出た言葉にディーノは耳を疑った。
今までアルコール度がたいして高くないカクテルを好んで飲んできた雲雀にいきなりウイスキーのロックなんて飲めるとは
思えなかったからだ。
『き、恭弥!』
『あなたが奢ってくれるんでしょ?』
金の問題じゃねぇ!とディーノが叫ぶ前に、目の前に置かれたグラスを雲雀は手に取った。
カランッとグラスと氷がぶつかる音がする。
一瞬グラスを見て、雲雀は覚悟を決めたように酒をあおった。
『恭弥っ!』
ディーノの静止を無視して、雲雀はグラスに注がれていたウイスキーを一気に飲み干した。
『…』
『だ…大丈夫か?』
少々乱暴にグラスをカウンターに置き、雲雀はディーノを睨みつけるように言った。
『大丈夫に決まってるでしょ。帰る』
『送ってく』
『いらない』
『恭弥』
『いいって…』
ディーノの手を叩き落とした時、雲雀の身体が揺れ、雲雀がしゃがみ込む。
『恭弥っ!』
『っ…』
ぐらぐらと視界が揺れ、気持ちの悪さに雲雀は目を瞑る。
『だから言ったんだ』
『うるさ…い…』
自分を抱きかかえるディーノの腕から逃れようと雲雀は暴れるが、たいした力が入らないばかりか、暴れたせいで更に酔いが回り、
気持ちが悪くなる。
『大人しくしろって…』
『うるさいっ…離せ…』
『無理だって。だから暴れんな!!』
そうして無理矢理雲雀を車に乗せ、ディーノが滞在しているホテルへと連れてきたまではよかったが、雲雀は車中で
眠ってしまった。
「ったく、本当に昔と変わらねぇな」
雲雀のサラサラした黒髪に指を絡めながら、ディーノは呟いた。
自由気ままで誰にもとらわれず、自らの強力な意志を貫いてきた雲雀。
そんな雲雀に焦がれるようになったのはいつの事だったのかディーノは思い出せない。
あるいは、最初から焦がれていたのかもしれない。
自分の気持ちに気付かなかっただけで。
「恭弥」
少し色付き、熱を持った頬に触れる。
ピクリと雲雀は反応するが、起きる気配は無い。
「…」
雲雀のこれほどまでに無防備な姿を見るのはディーノは初めてだった。
眠っていても殺気を感じればすぐさま起きるし(それ以前に人の気配があれば起きる)触れようものなら容赦なく
トンファ−で殴られる。
「これって…普段頑張ってる俺へのご褒美ってやつなのか?」
目の前のベットの上には無防備で普段より色気の増した雲雀がいて、その雲雀は一向に目を覚ます気配は無い。
「っ…」
今なら触れ放題だし、したい放題だという考えがディーノの頭の中を駆け巡る。
「…無防備に寝る恭弥が悪ぃんだからな」
自分に言い聞かせるようにディーノは呟いた。
ディーノがベットに体重をかけ、雲雀に触れようとした瞬間、雲雀の眼が開く。
お互いが無言で見つめあい、沈黙が続く。
「…」
「…」
ドンッ
それを破ったのは雲雀のがディーノをベットから蹴り落す音だった。
「何するのさ」
「それはこっちの台詞だろ!!思いっ切り蹴りやがって!!」
雲雀に蹴られた鳩尾を押さえながらディーノは反論するが、冷たい視線を投げかけたまま雲雀は言った。
「煩い。早く座りなよ」
「きょ…」
「正座」
「ハィ」
有無を言わせずにディーノを床で正座させ、雲雀はベットにゆったりと腰を下ろしながらディーノを見下ろした。
その瞳に温かみを全く感じられないとディーノは思った。
「どういうことか説明してもらおうか?」
無表情で殺気を纏いながら雲雀は尋ねる。
一応尋ねてはいるものの、それが拒絶を許さないことをディーノは直ぐに悟った。
「ぁ…いや…その…気分はどうだ?酒は抜けたか?」
「…そんな事は聞きたくないよ。何をした?」
「…別に何もしてねぇよ」
「…」
ドスッ
「っ…」
ディーノの直ぐ脇の壁にトンファーが刺さり、ディーノは死の危険を感じ始める。
「じゃぁ質問を変えよう。ここ、どこ?」
「俺が今回日本にいる間泊まってるホテル…」
トンファ−を首に押し当てられ、息が苦しい中でディーノは必死に答えた。
「ふぅん。場所は?並盛じゃないね」
「あぁ。並盛から1時間ってとこだ」
「…飲んでた場所から随分離れたわけか」
「…」
「で、わざわざ僕をこんな所に連れてきて、何しようとしてたの?」
「俺は酔って倒れた恭弥を介抱しようと思って…」
「ふぅん。さっきのあれがあなたなりの介抱の仕方だって言うわけ?」
「そうだ…ぐっ」
雲雀がトンファ−に力を込め、ディーノの気道を圧迫する。
「…」
「ぐっ…きょ…ゃ…」
「…」
「…きょゃ…」
「…」
ディーノの限界が近いのを感じ取り、雲雀はトンファーに込めた力を抜いた。
いきなり増えた酸素量にディーノはむせる。
雲雀はそれを冷たい表情で見下ろしていたが、ディーノの呼吸がある程度整うと、先程の質問という名の尋問を再開させる。
「言いなよ。僕に何しようとした?」
勿論、トンファーをディーノの首に当てたまま。
「きょうや…」
「…」
雲雀の冷たい視線に耐えきれなくなったディーノは小さな声で話しだした。
「確かに…酔った恭弥が色っぽくて…ここに連れてきて、普段出来ないいろんな事してやろうと思った」
「…」
「でも何もしてない!嘘じゃねえ!!」
「…」
「キスすらしてねぇよ。だってキスしようとしたら恭弥が起きたし」
「…」
「な、同じ男ならわかるだろ?好きな奴に触れたいって気持ち!!」
「残念だけど僕にはわからないよ。僕にそんな相手はいないからね」
必死に雲雀に同意を求めるが、雲雀は受け入れない。
本来、雲雀に同意を求めるというのが無謀な事なのだ。
「な…だって俺が…」
「煩い。死になよ」
「恭弥!!」
ガッ
いい加減に面倒になった雲雀がトンファーを振るい、ディーノは意識を失った。
「何その怪我。また階段から落ちたの?」
「は?」
次の日に出会ったの雲雀の第一声にディーノは雲雀を凝視した。
「あなたは僕を馬鹿にしてるのかな?」
「そんなことねぇよ!」
そのディーノの視線に苛立ちを隠そうとしない雲雀は言い、ディーノは慌てて弁解する。
「…で、何?」
「何って…」
「用がないなら帰ってくれないかな。邪魔なんだけど」
「恭弥…」
帰る気配も見せず、何か言いたげにしているディーノが少し以外で、雲雀は尋ねる。
「何なの?用があるなら早くしてよ」
「昨日…俺と会ってから何があったか覚えてるか?」
「昨日?ウイスキー飲んで、部屋に帰って寝たよ」
「…へ?」
雲雀から出た言葉に再度ディーノ派雲雀を凝視した。
「何?耳も悪くなったの」
「…恭弥、お前もう煽られても必要以上に飲むな」
完全に脱力し、雲雀の肩に手を置き、ディーノは力なく言った。
「変なこと言うね。煽ったのはあなたでしょ」
「そうだけど、とにかく駄目だからな!!」
「?」
「いいか、絶対だそ!!」
「?」
「良いな!!」
「別に良いけど」
雲雀の言葉にディーノはほっと一息ついた後、尋ねた。
「…なぁ、恭弥。恭弥は俺が好きか?」
「気色悪いこと聞かないでくれる?嫌いだよ」
即答で返され、ディーノは少しへこむ。
「そっか…」
「…」
「…」
「…でも、そうだね。強いあなたは嫌いじゃないよ」
雲雀の言葉にディーノは雲雀をまたまた凝視した。
2008.05.05
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