カランッ

唐突にグラスの中に入れられた何かに雲雀は眉根を寄せた。

青いカクテルが注がれているグラスの底は全く見えない。

「何のつもり?」

何かを入れた存在を振り返って雲雀が訪ねる。

「プレゼント」

雲雀の射抜くような視線に怯えることなく、綺麗な女性は端的に答えた。


Cocktail 〜mukuro Ver〜


「で、何を入れたの?」

「プレゼント。骸様から」

「…」

雲雀の隣の席に腰掛けた女性…クロームの言葉に雲雀は再度嫌そうな顔になるが、とりあえず目の前のグラスを持ち、 軽く振ってみる。

中に入っている何かはグラスとぶつかってコンっと音をたてた。

それなりに堅い物が入っているのだと気付き、雲雀はどうするべきか少しだけ迷う。

まさか骸が何か入れたものを飲み干すなんてある意味命懸けな事はしたくないが、このまま放っておくわけにも、 無理やり取り出すわけにもいかない。

どうするかと雲雀が考えていると、スッと細い手がカクテルを持ち上げた。

そのままクロームはカクテルをゆっくりと飲んでいく。

雲雀はただその光景を眺めていた。

カクテルの量が減ってくると、中に何かが入っているのかわかってきた。

雲雀がその何かに気を取られていると、まるで隙を狙ったかのようにクロームが身を乗り出した。

反射的に雲雀はクロームから距離を取り、その際手が当たったグラスが音を立てて割れた。

「…」

「…」

クロームは無言でグラスの破片と共に床に転がった何かを手に取り、雲雀へと差し出した。

雲雀が大人しく手を出すと、手のひらに何かを置いた。

指輪だった。

「…いらないよ。施しは受けない。それに、わざわざコレのためだけにこんな手の込んだことをしたのかい?六道」

「…」

ぽかんとするクロームに雲雀は嘲笑する。

「演技にしてはうまいね。なかなか真に迫ってる。だけど僕を見くびらないでくれるかな?遊びは終わりだ」

「…クフフ」

低い男の声がクロームから発せられ、同時にクロームを霧が包む。

霧がはれた場所にいたのは雲雀の最も嫌いな相手、六道骸その人だった。


「この指輪、何?」

「レア度5の雲属性リングです」

「…」

いつから変わっていた?なんて愚問な問いは行わず、雲雀は要点だけ訪ねた。

「君がボックス研究にご執心なのは知っていますからね」

「…」

クフクフと骸は笑い、雲雀は不愉快感を隠さない。

「…」

「…」

雲雀はどうするべきかと考えながら手の中にある指輪を弄ぶ。

あからさまに骸に突き返すことも、嫌みを言おうとしないのも、全ては手の中にあるリングのせいだった。

雲雀としてはレア度5というリングに勿論興味はあるが、骸から貰うのはプライドが許さない。

かといって、突き返したとしても骸は雲属性のリングを完全には使えない。

「…」

「何をそんなに真剣に考えているんですか?あぁ、僕からリングを貰うのは君のプライドが許さないんですね」

わかりきったように喋る骸に腹は立つが、何かを言ったところで骸が変わるとも思っていない雲雀は聞き流すことにする。

「…」

「つまらないですね。まぁ良いです。君がそのリングを使うも使わないも君次第だ」

「…」

「しかし、君のお気に入りのハリネズミを越える力がここにありますよ」

リングを指差し、骸は意地悪に笑う。

「…」

「ではそろそろ僕は戻りますよ。実体化するのもそろそろ限界だ」

「…六道」

「?」

席を立った骸に雲雀が投げた何かを空中で骸はしっかりと受け取り、それを見て眉を寄せた。

「返すんですか?」

その言葉に雲雀は嘲笑した。

「返す?僕がかい?」

「?」

雲雀の言葉に訝しい表情をした後、骸は手の中にあるリングを見て少しだけ驚く。

雲雀は骸のその表情を楽しげに眺めていた。

「やってくれますね、雲雀恭弥」

「君のそんな顔を見れるなんてね。そういう意味でもそれは結構な価値があったね」

「…」

骸は少しだけ己の手の中にあるリングを見た後、黒いグローブをはめている指へとはめた。

「…」

「似合いますか?」

「ふっ…僕の好みじゃないね」

「おゃおゃ」

雲雀から貰ったレア度5の霧のリング、ヘルシングをはめ、骸は笑う。

いつの間にか雲雀も骸から貰ったリングをはめていた。

「リングの交換なんて、まるで結婚式みたいですね」

「用が済んだらとっとと帰りなよ」

骸の軽口にも乗らず、雲雀はもう用は無いとばかりに帰ろうとして席を立つ。

「待ってくださいよ。途中まで一緒に帰りましょう?」

「何言ってるの。君と帰る必要なんて無いよ」

「クロームがいますから。女性一人で夜の街は危険でしょう?」

「…」

無言で歩き出した雲雀の後をクロームの姿に戻った骸がついていった。







2008.05.05