時刻は深夜。

場所は波盛町の住宅街にある小さな公園。

風紀の事務仕事で遅くなった雲雀が欠伸をしながらその公園の前を歩いていた時だった。

「雲雀恭弥、お久しぶりです」

「!」

不意に雲雀にとって忘れたくとも忘れられるはすの無い、初めての屈辱を味わわされた相手、六道骸の声が耳に届いた。 その瞬間雲雀は仕込みトンファーを暗闇に向かって振るった。

ヒュッ

という空気を裂く音が聞こえるが手ごたえは無く、声の主である骸はゆっくりと暗闇から月光の元へと姿を表した。

「六道…骸…」



邂逅



「そんなに睨まないでくださいよ。色々ありましたけど、今は同じボンゴレの守護者じゃないですか」

クフフフという独特の笑いと、余裕の顔をしながら骸は言う。

その態度と言葉に雲雀はイラつくが、不思議と頭は冷静だった。



『でっけぇお楽しみがなくなるぞ』

『遠くない未来六道骸とまた戦えるかもしんねーぞ』



以前校舎に不法侵入していたヴァリアーとツナ達を殺そうとした時にリボーンに言われた言葉を思い出す。

その時は半信半疑だったが、今その言葉は真実だったんだと雲雀は悟った。

「ふぅん、赤ん坊の言ってた事は本当だったんだ。ねぇ、僕は借りは返さないと気がすまないんだ」

「奇遇ですね、僕もですよ」

相変わらずその余裕の笑みを崩さずに骸は答える。

「なら話は早いね」

そう言うと雲雀はジャキッと仕込みカギを出し、臨戦態勢をとる。

「…」

「行くよ」

ダッ

と一気に骸との間合いを詰め、雲雀はトンファーを振るうが、その攻撃は以前壊れたはずの骸の武器で軽く止められる。

「クフフ…以前より強くなりましたね」

「赤ん坊の知り合いとかいうイタリア人とずっと戦ってたからね」

「なるほど」

『雲雀ならディ−ノと修業中だぞ』

骸がリボーンに雲雀の居場所を聞いたときに返ってきた答えがこれだった。

その時骸は軽い苛立ちを抱えたが、その苛立ちの理由は骸自身にもわからなかった。

一瞬骸の注意が雲雀から逸れたのを見逃すほど雲雀は甘くなく

ガッ

という音と共に骸のバランスを崩し、骸が体勢を整えるより一瞬早くトンファーを骸にあてる。

ドサッ

「くっ・・・」

「あの時の借りを今返すよ」

方膝をついた状態の骸を見下ろしながら雲雀は言う。

「…」

「どうしたの、まさかこの程度じゃないよね?」

「・・・クフフフ、言いますね。なら本気でお相手しましょう」

骸は言い終わらないうちに雲雀に足をかけ、ドサッと倒す。

「クフフ、この程度ですか?」

まるで立場が逆転したのを強調するかのように骸は雲雀を見下ろしながら言う。

「まさか」

ビュッ

ガッ

「僕は…因縁を感じます。マフィアに戻る日が来るなんて」

「…」

雲雀の攻撃を軽くいなしながら骸は独り言のように喋る。

「僕は嫌いなんですよ。マフィアも、人間も、この世界も」

「…」

「勿論、貴方も」

「だから?」

「クフフ・・・本当に君は面白い・・・ですね!」

「!?」

骸が雲雀の視界から消えた直後、バキッという音が静寂の闇の中に響いた。

「っぁ…」

カランッ

「痛いですか?苦しいですか?」

「っ・・・」

地面に膝をついて、自由に動かない手でトンファーを拾おうとしている雲雀の髪を骸がグイッと持ち上げる。

「髪…引っ張らないでよ」

「クフフ、これは…失礼!」

そう言いながら骸は雲雀を突き飛ばし、倒れた雲雀の肺を片脚で圧迫する。

「ひゅっ…」

「肺を圧迫してますからね。呼吸もままならないでしょう?」

「ひゅぅ…」

「クフフフ、どうしました?僕を倒すのではなかったのですか?」

「…」

実に楽しそうに笑う骸を雲雀は荒い呼吸のまま睨み付けることしかできない。

「ふぅ」

一旦溜息をつくと骸は雲雀から足をどけ、雲雀を蹴ってうつ伏せにする。

「かはっ…」

骸の圧迫から開放された雲雀は立ち上がろうともがく。

「あぁ、無理に動かない方が良いですよ。さっき両肩の間接外しましたから」

「…」

両手が自由に動かないのは関節を外されたためだと知っても雲雀は立ち上がろうとするのを止めはしない。

「無理ですよ。両手が使えないんですよ?」

「うる・・・さい・・・」

「・・・」

暫く雲雀はもがき続けていたが、両手が使えない状態で立ち上がるなんて不可能な事で、 今は荒い呼吸をしながらその場に蹲っていた。

「残念ですね、雲雀恭弥」

「・・・」

「・・・その眼…気に入りませんね。えぐり取ってしまいましょうか」

「!?」

不意に言われた骸の言葉に雲雀は両肩の事も忘れて立ち上がろうとするが、両手が使えない状態ではやはり立ち上がれなかった。

「おっと、逃げないでくださいよ?それとも、貴方ほどの人でも流石に嫌ですか?」

雲雀に少しでも目線を合わせようとするかのように骸は雲雀の前にしゃがみこみながら尋ねる。

「…」

「あぁ、大丈夫ですよ。確かに痛いですけど死にはしません。僕が生きているのがその証拠です。 それに、片目があれば見えますから問題は無いでしょう。何なら義眼でも用意しましょうか?」

「ふざ・・・けるな・・・」

「あぁ、本当に気に食わないですね。その綺麗な黒髪…」

雲雀の黒髪に触れた骸の手から零れ落ちる雲雀自身の黒髪がゾクッと雲雀に嫌悪感を抱かせる。

「深い傷等無いその肌…」

「な…」

骸の手が雲雀の肌に触れると雲雀はその嫌悪感を隠せなくなる。

「最も気に入らないのはやはり…光りを失わず、濁ることの無いその漆黒の瞳だ」

ゾクリッ

「さわ…るなっ!」

ガッ

「くっ…」

骸は膝で雲雀の鳩尾に攻撃を加えると

「状況を考えたらどうです?」

と静に言い放つ。

「…」

「今の貴方は僕には決して勝てない」

「そんなこと…」

「無い。と言いたいんですか?今現在貴方は立ち上がる事も困難なのに?」

「くっ…」

今の状態では憎々しい骸に一撃を加える事が不可能な事ぐらい雲雀自身が一番理解していた。

それでも骸に言われると本気で腹が立つ。

「おしゃべりは終わりです。さぁ、さっさとその眼をえぐり取ってしまいましょう」

スッ

「っ…」

骸の手が雲雀に伸び、雲雀の眼球まで後数センチという所で

「骸様、ボンゴレが…」

という千草の言葉が2人の耳に届く。

「あぁ、もう来てしまいましたか。残念、時間切れのようです」

そう言うと骸は手を止めて立ち上がる。

「ま・・・ちなよ・・・」

去っていく骸に言った雲雀の言葉に骸は立ち止まり、振り返る。

「雲雀恭弥、貴方を壊すのはこの僕です。覚えていてくださいね。クフフ…クハハハハハハ!」

そう言うと骸は暗闇の中に姿を消した。



後に残ったのは静寂にだけ・・・。


2006,8,19