右を見ても左を見てもバレンタイン。

どうせ俺にはチョコくれる可愛い彼女なんていないし、何かの弾みでチョコを貰おうものなら忠犬が狂犬に早変わりだ。

お〜怖い、怖い。

「日頃の感謝を込めて親しい友人やお世話になった人にチョコを配りませんか〜?自分へのご褒美にも最適です」

そんな俺に呼び込みバイトの兄ちゃんの声が聞こえてくる。

男に贈るより女同士で交換したり、自分にご褒美として買う方が増えてるらしい。

どっちにしろ貰えない俺には関係無いんだケドね。

「チョコねぇ…」

チョコは好きだ。

濃厚なチョコジェラートと、季節限定のやつは特に。

本音を言えば、バレンタイン限定のチョコがメチャクチャ食いたい。

でも、特設コーナーに男1人で乗り込むだけの勇気は無い。

普通は無理。

「恋人に、ね…」

愛しい狂犬を脳に描きながら、俺は数枚の板チョコを買い物カゴに投げ入れた。



Buon Compleanno Giulio R4



「おじゃま、します」

「ど〜ぞ〜」

俺が住むボロアパートに約束の時間ピッタリに現れたジュリオに今更驚くことなんて無いし、ジュリオも狭い部屋にどでんと置かれた炬燵にいそいそと入ってる。

前は俺が座れとか言わないとずっと立ったままだったからなぁ…変われば変わるもんだ。

「おまっとさん」

「ありがとうございます」

オムライスと水をそれぞれの前に置き、俺達は無言で遅い夕食を食べ始める。

作るのは時間かかるのに食べるのは数分ってのが虚しい。

でも…

「ご馳走さまでした。美味しかったです」

本当に幸せそうにジュリオが笑うから、まぁいいかって思っちまう俺は相当なんだろう。

「皿洗ってくるから待ってろ」

「はい」

前は手伝うと言って手伝ってくれたけど、食器は割るわ、物はぶちまけるわで余計な手間が増えまくった。

だから今はきちんと待ってる。

ん、良い子。

ちらちらと気にして視線を投げられるのも嫌じゃない。

は〜俺ってやっぱり重症だよな…。

「ジャン、さん」

「お待たせ」

「はい」

「ジュリオ」

「はい」

「プレゼント」

「俺に、ですか?」

キッチンから戻って白い袋を渡すと、ジュリオはきょとんとして俺を見た。

「この状況で他の誰にやるんだよ」

「そうですね。すみません。あの…開けても?」

「勿論」

袋の中にあるこれまた白い箱をジュリオが開ける。

「ぁ、チョコ…もしかして手作りですか?」

「そ、バレンタインチョコ。まぁ、味の保証はしねぇけど」

「嬉しいです。ありがとうございます」

にっこりと笑うジュリオの視線を受けながら、俺は後ろ手に持っているものを握り締める。

「…あのな、本当はもう1つプレゼントがあんだよ」

「ぇ?何ですか?」

「…引くなよ?」

「引きません」

真顔で返されて覚悟を決める。

ばしゃっ

「!?何してるんですか!?濡れて…甘い?でも、アルコールの匂いも…」

「コレ、チョコビールって言うらしいんだよ。今日はバレンタインだし、明日はお前の誕生日だから…だからっ…」

自分にぶちまけた液体の入っていた瓶を見せながら喋る。

自分でもくだらなくてわけわかんねぇこと言ってる自覚はある。

それでもやっちまったことは取り消せねぇ。

「嬉しいです、ジャンさん」

「っ…」

こんな馬鹿なことしてもやっぱりジュリオは笑ったままだ。

「残さず、食べます」

「ぅん」

だから俺にはそれしか言えない。



2013.02.15