「今何て言った?」
「『臨也が拉致されて、監禁されたみたい』って」
少し大きくなった声に驚くことなく私は告げる。
本当なら、私はもっと焦ってないとおかしいのだろう。
「マジか?」
「多分ね。ここ数日帰ってきてないし、連絡もない」
「そうか」
静雄はそれだけ言うと黙ってしまった。
予想外の事に少しだけ驚きつつ、聞いてみる。
「臨也がいなくなって嬉しい?」
「それは…まぁ…そう、なのか…?」
歯切れが悪い。
複雑なんだろう。
「静雄らしいね」
「お前は平気なのか?」
「何が?」
「臨也はお前の双子の兄だろ。監禁って言やぁ拷問とか薬とか…色々あんだろ」
「…いつも死ね!とか言って自販機投げてる静雄が言うと変な感じ」
「…」
嫌そうに私を見る静雄は無意識に臨也を心配するような言葉を言ってしまったことが不本意なのだと告げている。
静雄は少なくとも私の心配を理解しようとしてくれている。
だけど、原因は臨也だから複雑なのだろう。
しかし、そんなものは不要だ。
何故なら、私は心配していないから。
「静雄、臨也は無事だよ。私にはわかる」
「何でだ?」
「双子だからかなぁ。どこにいるかまではわかんないんだけど、臨也が無事だっていうのは何となくわかる。だから臨也は無事。残念?」
「まぁ、な。だけど、あいつがくたばったって聞いたとしてもこの目で見ねぇかぎり俺は信じられねぇと思う」
「うん。そうだね」
それは私も同じだ。
私は目の前に臨也だと言って遺体が置かれたとしても、それが臨也だと信じないかもしれない。
逆に、目の前にいても臨也じゃないと言うかもしれない。
それはただの感覚でしかないけれど。
「アイツが監禁されてどのくらいだ?」
「行方不明になって1週間。ある程度目星はつけたから、探せると思う」
「そうか」
「静雄、何か勘違いしてない?私は臨也を捜せるとは言ったけど、助けるとは言ってないよ」
「ぁ?」
私の言葉に静雄は凝視してくる。
「静雄は私のこと良い人だと思いすぎだよ。私の本質は臨也と何ら変わらない。必要があれば静雄だって平気で騙して裏切れる」
「でも、お前はそんなことしねぇだろ」
真剣に、一切の疑いもなく言われて思わず言葉に詰まってしまう。
「…まいったなぁ。そうだね。少なくとも今は、しない」
口から出たのはそんな言葉だった。
それに対して静雄は何も言わない。
「…」
「臨也には借りがあるし、助けるのはいいんだけど、後で文句言われそうだから迷ってる。静雄にも借りがあるし、万が一にも監禁されたら助けるから安心してね」
「おぉ」
まぁ、静雄を拉致、監禁なんて出来る人間がいるとも思えないけど。
「ねぇ、波江さん。波江さんならどうする?」
事務所の主が不在でもきっちりと仕事をしている有能な部下の波江さんに声をかけると、仕事の手を止めて私を見る。
「何が?」
「波江さんの大事な大事な弟が何者かに拉致された。波江さんは助けたいけど、弟はプライドがあるから助けてほしくない。命の危険は無さそうである」
「愚問ね。誠二を助けるわ」
瞬時に返された予想通りの言葉でも一応尋ねてみる。
「本人が望んでいないのに?」
「誠二が大切だからよ。それに、誰であっても誠二の邪魔をしてはいけないの。あなただって最初から決めてるんでしょ?」
「恐いなぁ、波江さんは…どこまで知ってるの?」
「何の話かしら?」
一応カマをかけてみても反応は無い。
あの事を知っているはずはないけれど、侮れない相手だ。
「…まぁ、いいけどね。さて、私の本気を見せようか」
そう呟いて気持ちを切り替え、携帯に表示された番号にコールした。
《…もしもし?》
《こんにちは?それとも初めまして?折原甘楽と言います》
《…》
相手からの応答は無くても、聞いているのはわかっているから私は言葉を続ける。
《そちらの関係者の所に不肖の兄がお世話になっているはずなんですが》
《…》
無言の相手と腹の探り合いをするのも面白いかもしれないが、今は必要無い。
私にあるのは確信。
そして、あちらにも。
《臨也を、返して》
《何故この番号を知ってるんだ?》
返ってきた言葉は予想と少し違っていて、無意識に笑みが浮かぶ。
《ふふっ…あまり私を舐めてもらったらこまるなぁ》
《…》
意識的に声のトーンを落とす。
次に言葉を発した声は臨也の声だ。
《ねぇ、九十九屋真一さん?》
Лишение свободы Side甘楽
2011.02.09
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