いつも以上に多いキャァキャァという女の子の甲高い声に、獄寺は朝からウンザリとしていた。

色とりどりの包装紙で綺麗にラッピングされ、自分に差し出される物も、自分の机の上や、下駄箱に入っている物も、 興味の対象でなければ邪魔以外の何物でもない。

「うぜぇって言ってんだよ!!」

蜘蛛の子を散らすように手を思いっきり振り、自分の周りに集まってきていた女の子を散らす。

そして、獄寺は乱暴に椅子を引くと、机に脚を乗せ、行儀悪く座った。


9/9 獄寺隼人と沢田綱吉


「ったく、ギャァギャァうるせぇってんだよ」

「獄寺君」

「あぁ?うるせぇって言ってんだろうが!!ちったぁ静かに・・・って、10代目!?も、申し訳ありませんでしたっ!!」

声をかけてきた相手を確認することもせずに、獄寺はイラつきをその相手に浴びせ、その途中で相手がツナであることを知ると、 転げ落ちるように机から下り、ガンガンと床に頭をぶつけながら土下座する。

そんな獄寺をツナは呆気に取られて見ていたが、直ぐに我にかえる。

「ご、獄寺君、早く顔あげて!」

「すみません、すみませんっ!!」

「いいから。もういいから!!」

頭をガンガンと床に当てながら土下座し、ツナに謝る獄寺という光景は何も知らない普通の人から見れば異様な光景に映るものの、 それが日常茶飯事となってしまえば、見慣れているクラスメートはまたかという反応しか見せない。

「獄寺君、顔上げてってば!」

「すみません、すみません!」

「もう良いって。別に気にしてないし」

「ほ…本当ですか?10代目はなんてお優しい…」

「普通だからね。ほら、立って」

「はい。恐縮です」

伸ばされたツナの手を取り、獄寺は立ち上がる。

獄寺が立てばツナは獄寺を見上げる形になるがツナはそんな事は気にしていない。

「獄寺君、今日誕生日だよね?」

「はい。覚えていてもらえて感激です!」

「大袈裟だなぁ。それでね、プレゼントがあるんだ」

「俺にですか?」

「他に誰がいるの?」

「そ、そうですよね!」

「だから、はい、コレ」差し出された包みを受け取り、歓喜に震える獄寺を、ツナは苦笑しながら見ている。

「10代目…有り難うございます!!一生の宝にします!!」

「大袈裟過ぎだよ」

「そんな事ありません!本当に有り難うございます。10代目の誕生日には、10代目をあっ!と驚かせるようなプレゼントを ご用意します」

「いいよ。何か…怖いし…」

「?何が怖いんですか?」

「獄寺君の異様なやる気…」

「へ?何か言いました?」

「ううん!」

慌てて首を振り、ツナは適当に誤魔化し、獄寺もそれ以上追求することはしなかった。

「開けてみても良いですか?」

「良いよ。ただ、小遣いが全然残ってなくて…」

「10代目から貰えるものなら何でも嬉しいです」

「そぅ…」

満面の笑みで言われれば、一応は恋人関係といわれる仲であることを急に意識してしまい、ツナは真っ赤になった顔を見られまいと 獄寺から視線を外す。

当の獄寺はプレゼントを開けるのに夢中になっていて、ツナのそんな様子に気付いていなかった。

「ぁ…」

「あの、あんまり獄寺君が欲しいものとかわかんなくて…獄寺君お金持ちだから何でも買えるだろうし…だから、その…」

中学生が買うには相応しい値段の代物でも、送る相手が金持ちで、沢山のプレゼントを渡される(一方的にだが)

獄寺だと自信がないのか、ツナは言葉を探しながら喋る。

そんなツナの気持ちを悟ったように獄寺はプレゼントを大切そうに持ち、言う。

「嬉しいです、10代目。10代目が俺の事考えて、一生懸命選んでくれたんですよね?」

「ぅ…うん」

「その気持ちが嬉しいんです。だから、プレゼントを気に入らないわけはありません」

「獄寺君…」

「有り難うございます、10代目」

もう一度お礼を言い、獄寺は笑う。

ツナもそれにつられて笑った。

「うん。それで…」

ツナが何かを言いかけた時、不意に低い声がツナの話を遮る。

「何を持っている?」

「ふ…風紀委員!?」

「何の用だよ?」

ギロリと睨みつける獄寺を物ともせずに、風紀委員の1人が話を続ける。

「その手に持っている物は何だ?」

「テメェには関係ねぇだろ!」

「そうはいかない。学校に不要な物を持って来られたら風紀が乱れる」

「あぁ?」

苛々を隠しもせず、完全に喧嘩腰の獄寺に一瞬怯んだものの、風紀委員はさらに続ける。

「出せ。没収する」

「ざけんな!」

「出せ。出さなければ粛正するぞ」

「面白ぇ。てめぇらなんかに俺が負けるかよ」

獄寺によって勢い良く取り出された数多のダイナマイトを見た瞬間、ツナや風紀委員を含めたその場にいる生徒全員が 一気に青ざめる。

「獄寺君っ…だ…」

「果てろっ!!」

放たれたダイナマイトは放物線を描き、風紀委員の頭上で爆発した。


ドカァンッ

轟音と共に応接室で昼寝をしていた雲雀は目を覚ました。

「・・・」

睡眠を邪魔された雲雀は不機嫌な表情のまま、殺気をその場に撒き散らす。

しかし、その場には誰一人として・・・雲雀の愛鳥すらいなかった。

「・・・」

雲雀はそのままソファーから起き上がり、完全に覚めきらない頭のまま廊下を歩く。

雲雀の進路にいる生徒は素早く壁際に寄り、雲雀はモーゼのごとく、人の間に設けられた道を歩く。

「ピィッ」

暫く歩いたところで雲雀の頭の上にポスンッと雲雀の愛鳥がとまったが、雲雀はそれを気にかけることはしなかった。

「・・・どこ?」

呟いた独り言に反応し、鳥がパタパタと羽根をバタつかせるが、雲雀の暴れないでという言葉に素直に従い、 鳥は再度雲雀の頭の上で落ち着くが、首を傾げ、その姿は何かを考えているのではないかと思わせる。

「・・・」

ドカアンッ

2度目の轟音と同時に音のした方へと進もうとする雲雀よりも早く、鳥が雲雀のちょうど目線の高さで羽根をバタつかせる。

「・・・」

雲雀はまるでついてこいといわんばかりな愛鳥の態度に続くことにした。


「てめぇらなんかが俺にかなうと思うなよ。10代目、これで邪魔者は消えましたね」

「あぁ・・・うん・・・」

倒れている風紀委員達を見ながらツナは曖昧な返事を返す。

その顔には怯えが混じっていた。

「さ、10代目、そろそろ授業始まりますよ」

「う・・・うん・・・」

「待ちなよ」

苛立ちを含んだ低い声がシンッとした廊下に響き渡る。

その声を聞いた瞬間、ツナは反射的に震えた。

「あぁ?てめぇもやろうってのか?」

頼むからガン飛ばさないで!!というツナの心の叫びは獄寺には届かない。

「・・・邪魔」

廊下に倒れていた風紀委員達を蹴り飛ばし、雲雀は1歩づつ近付く。

完全に怯えているツナを庇うように獄寺がツナの前に立ち、雲雀を睨み付けるが、雲雀は全く動じる気配は無い。

「これは君がやったのかい?」

視線で風紀委員達を指し、尋ねる雲雀に警戒心を緩めることなく獄寺は頷いた。

「そう。使えない奴らだね」

「・・・」

「まぁ、良いよ。こいつらも所詮草食動物だからね」

「・・・」

「僕の学校の風紀を乱した罪は重い。君はここで・・・咬み殺す」

「お前なんかにやられるかよっ!!」

「ご・・・獄寺君、駄目だよ・・・」

「果てろっ!!」

獄寺は勢い良く取り出したダイナマイトに瞬時に火をつけ、雲雀に投げる。

雲雀は素早くトンファーを振るって導線を切ると、一気に獄寺へと距離を縮める。

「2倍ボムっ!!」

「その程度で僕が倒せると本気で思ってるのかい?」

「ちっ・・・」

2倍ボムに怯むことなく、雲雀は獄寺にトンファーを振るう。

獄寺はそれを寸での所で避けるが、それすらも読んでいた雲雀の連撃によって廊下に叩きつけられた。

「て・・・てめぇ・・・」

「まだやる気かい?」

「当たり前・・・」

「止めてください、ヒバリさんっ!!」

今まで動くことが出来ずに怯えていたツナが声をあげ、雲雀と獄寺がツナを見る。

「次は君が相手かい?」

「ち・・・違います。でも止めてください。獄寺君の負けで良いですから」

「なっ・・・10代目っ・・・」

「ふぅん」

「・・・」

「・・・良いよ。今回は見逃してあげる」

ツナをじっと見つめた後、雲雀はそれだけ言うと学ランをなびかせて去っていく。

雲雀が去ると、止まっていた時間が動き出すかのように生徒達が動き始める。

「はぁ・・・」

「10代目・・・何で・・・」

「元はといえば、俺が獄寺君にプレゼント渡しちゃったせいだし、獄寺君にこれ以上怪我してほしくないし」

「10代目・・・」

「だから、今回は、ね?」

「うっ・・・不肖獄寺隼人、10代目の海よりも深く、山よりも高いお心に感激しましたっ!!」

「もう、大袈裟だな」

「10代目、一生ついていきますっ!!」

「うん・・・よろしくね」


最終下校時間を過ぎた並盛中の応接室で雲雀は本日の出来事を日誌に書いていた。

窓から差し込む夕日が応接室を照らし、部屋が赤く染まる。

コツッ

という音を立ててペンを置き、雲雀は日誌を閉じた。

それを合図としたように雲雀の愛鳥がちょこんと肩にとまり、一鳴きする。

「うん、今日も並盛の平和は守られた」

雲雀は満足げに呟くと、応接室を後にした。