「霧氷月天!」

辺り一面を冷気が包み込み、巨大な氷柱が瞬時に形成される。

「甘いな」

「っ…」

それに動じることなく狂は天狼を振るい、アキラはその軌道から即座に離れる。

荒い息をついているものの、巨岩を粉々にした狂の攻撃をかわしたくアキラを見ながら狂はニヤリと笑う。

「やるようになっきたじゃねぇか」

「嬉しい限りですね」

武者修行の旅を続けるアキラは、少なくとも1年に1回は狂とゆやが住む家へと訪れる。

狂と死合うために。


約束


「まだやれんだろ?」

「当然です。私を誰だと思ってるんですか?」

アキラは決まって桜の時期に現れる。

その日が灯の決めたアキラの誕生日だとゆやが知るのは壬生一族との戦いが終わり、狂が戻り、桜が数回咲いた後だった。

狂とアキラの間に何らかの約束があるのか、それとも単にかかってくるから相手をしているだけなのかは定かではないが、狂は挑んでくるアキラと楽しげに戦う。

その姿は子供の成長を喜ぶ親のようでもあり、弟子の成長を喜ぶ師匠のようでもあった。

「ほら、へばってんじゃねぇよ」

「っ…グランドクロス!」

「おっと」

「甘いですよ」

狂を取り囲んでいた氷が一気に増殖し、狂を覆い尽くす。

しかし、それで動じる狂ではなく、朱雀によって氷を一瞬にして溶かす。

高熱によって溶かされた氷は水蒸気となって辺り一面を覆い、視界がきかなくなる。

「アキラのやつ、これが狙いか。だが、その手に引っ掛かるほど俺様は馬鹿じゃねぇ」

狂は背後から迫ってきていたアキラに天狼で容赦無く斬りかかる。

「!」

アキラの体制が崩れたのと同時に、天狼を握っている狂の手に痺れが走る。

狂が無意識に身体を捻ったのと腹部にアキラの刀が触れたのはほぼ同時だった。


「はぁ…はぁ…」

「…」

乱れた呼吸を繰り返すアキラから少し離れた場所に腰を下ろし、狂は先程のアキラの攻撃を思いだして笑う。

「何が、そんなに…楽しいんですか?」

「お前の最後の一太刀が面白くてな」

「あれ、ですか。思っていた以上に…意識を逸らせて、驚いてますよ」

「この間はあんなの使わなかったな」

「今回の旅の間…に、習得したんです。狂に、誤認させる、のは…難しいです…から」

アキラが使ったのは氷人形で、辺り一面の水蒸気によって氷人形を自分であると錯覚させ、僅かに出来た隙に狂を倒すというものだった。

一見簡単に思えるかもしれないが、狂ほどの手練れに一瞬でも本物だと思い込ませるのは至難の技だった。

「また腕をあげたな」

「まだ狂には敵いませんけど…」

「俺様に勝てるわけないだろ」

「いいえ、いつか勝ってみせます。勝って私を認めさせます!」

「楽しみにしとくぜ」





2012.04.17