誰が俺を生んだとか、俺の本当の名前は何なのかとか、そんな事はどうでもよかった。

重用なのは日々をどうやって生き延びるかで…殺し、奪い、盗んだ。

そのせいで殺されそうになった事は何度もある。

おかげで死体のフリが旨くなった。

腐った食べ物を食べて腹を壊したのも1度や2度じゃない。

あの頃は直ぐにあの地獄から逃れたかった。


Contact


ゴッ

大きな石で突然頭を殴られる。

「うがっ」

俺はその場に倒れる。

「はぁ…はぁ…」

俺を殴った奴は荒い息を吐きながら俺が見つけた食い物を奪う。

ガツガツ

獣のようにそれに食らいつく奴から俺は食べ物を奪い返そうとした。

バキッ

「うっ…」

だけど俺の力では敵わなくて俺は再度地面に転がる。

「てめぇにこいつはもったいねぇ」

下卑た笑いを浮かべる奴を見上げながら俺は言う。

「返せ…」

「うるせぇよ」

ドゴッ

「うぁ…」

ドスドス

「うっ…がぁ…」

腹に何度も何度も蹴りをくらい、俺は段々と意識が遠のき・・・ついに気を失った。


「っ…あの野郎…」

ズキズキと腹が痛み、呼吸するのすらきつい。

「くそっ…」

それでもいつまでもそこに寝転がっていたらそれこそ俺の末路は白骨か獣の餌か、あるいは人間の食料 になるかのどれかしかない。

俺は痛む腹を押さえながらゆっくりと歩いた。

随分と歩いて、ある集落の傍まで来た。

「碧い目」

「気味が悪い」

「見てみなよ、あの髪の色」

「気持ち悪いったらないねぇ」

全部聞こえてる。

「化け物みたいね」

「気持ち悪い」

この眼の色と髪の色は異人の色で、気味悪がられたり、嫌悪されたりする。

そんな眼差しで見られること自体少なくなかったから俺はもうどうとも思わなくなってしまった。

ゴッ

「消えろ!化け物!」

罵声と共に石が投げつけられ、それを合図にしたかのように石や棒なんかが俺目掛けて飛んでくる。

「ここからいなくなれ!!」

「化け物!!」

石や棒が体中に当たって血が流れる。

俺だってこんなとこにいたくなんか無いのに。

俺はなるべく早足でその集落を通り過ぎた。


俺はあの後身体中の痛みを癒すためと夜を明かすために集落から少しはなれた小高い丘のような場所にいた。

そこからは集落がよく見えた。

俺は傷の痛みと空腹で動く事ができなかった。

それから数日間俺はそこにいた。

腹が減りすぎると腹が減ってるということすらわからなくなる。

動きたくても動けないもどかしさ。

日に日に強まる脱力感。

これではいけないと思いつつ、俺は動けなかった。

今にしてみればそれは予兆だったのかもしれない。

出会うための・・・。

ある雨の日、集落が野党に襲われた。

俺はそれを黙ってみていた。

力こそ全てのこの世界。

俺は弱くて…力が欲しいと何度も願った。

誰にも負けない強い力が…。

集落が落ちた。

女子供関係無く殺されて、村人はいなくなった。

家畜は連れ去られ、残ったのは瓦礫の山と人間だったものだけ。

俺は最後の力を振り絞って立ち上がり、集落だった場所へと向かった。

瓦礫の山の中にあった短刀を拾い、人間だったものに突き立て、肉を裂く。

引き裂いたそれに無我夢中で噛み付けば血の味が咥内に広がる。

無理矢理飲み込み、それを何度も何度も繰り返した。

人間を・・・人間だったものを食べるのは嫌いだ。

でもそれでしか生き延びられないというのなら・・・空腹を満たすのがそれしかないのならば俺は受け入れよう。

俺はまだ死にたくはないのだから。

それでも何日も何日も水一滴すら入れていなかった俺の腹はそれをすんなりと受け入れてなどくれない。

食べては戻し、食べては戻しの繰り返し。

それでもそれを繰り返すうちに俺の腹は徐々にそれを受け入れ始めた。


「ぅ…」

流石に数日がたつと死体の腐敗臭が酷くなる。

その臭いの源はこの集落全体にあるのだから物凄い。

ここまで腐敗するとさすがに食べるなんて無理な話だったが、俺の腹はこの数日間でほぼ満たされていた。

やがて腐敗臭を流すかのようにポツポツと雨が降り始め、俺は瓦礫の中でもまだ雨がしのげる場所に隠れるように入る。

雨は数日間降り続き、その間俺は身をちぢこめてその場所にいた。


ジャリッ

という音で俺の意識は覚醒した。

どうやら眠ってしまっていたらしい。

俺は覚醒したばかりの脳を無理に動かした。

誰かいる。

村人のわけが無い。

村人は全員死んだはずなのだから。

おそらく野党の類だろう。

しかし、それにしては人の気配が殆ど無い。

俺は右手に短刀を持ち、辺りを見回す。

人の気配はやっぱりなくて、俺は気のせいだったかと気を抜いた。

だが次の瞬間それは気のせいではないと悟った。

俺の眼の前には人間が立っていた。

黒く長い髪、黒い着物、長刀、そして紅の瞳。

それは強烈な存在感を放ち、俺の目の前に立っていた。

「っ・・・」

俺は少しだけ震えたが短刀を握りなおし、瓦礫の中から出て目の前の男に向かい合った。



クスッ

「何笑ってやがる」

「私が初めて狂と会った頃の事を思い出していたんです」

「あぁ、お前がただのガキだった頃の話か」

「覚えていますか?」

「あぁ」

「狂…」

「ぁ?」

「有難う」

「・・・」

俺を拾ってくれて。

俺を強くしてくれて。

俺を認めてくれて。

俺を信じてくれて。


俺の前にいるのは千人斬りの最強の侍、鬼眼の狂。

俺が常に背中を追っていた最強の存在。

今その狂が俺を見てくれている。

振り返って、俺を見て、本気で相手をしてくれるという。

恐くないといったら嘘になる。

興奮していないといったら嘘になる。

でも…それ以上に嬉しいと思う。

たとえどんな結果になろうとも…後悔だけはしない。


「さぁ、始めましょうか、狂」

「良いぜ」

「アキラ…参る!」


狂…俺は…


2006,4,17