甘楽によって名付けられた津軽海峡冬景色…通称津軽は元となった平和島静雄と完全に似ることはなく、基本的に大人しい存在となった。

「津軽、行くよ」

「はい」


月下


金髪長身に青い着物という現代社会で目立つ格好であっても、夜となれば少しは紛れる。

新宿の明るい場所から徐々に暗い場所へと歩いていく甘楽の後を、津軽は静かについて行く。

客引きの声が徐々に無くなり、向けられる視線が危険な色を孕んできても、甘楽は速度を緩めない。

そんな甘楽が不意に足を止め、津軽も甘楽から1歩下がった斜め後ろで足を止める。

目の前にいるのは本職の人間に飼われているのであろう種類の人間。

甘楽に浴びせられる言葉からも、とても筋を通すタイプには見えない。

そんな中で何を言われても答える気配の無い甘楽に苛立ったのか、男達は甘楽と津軽を取り囲み、保っていた距離を縮めようとする。

その瞬間、今まで身動き1つしなかった津軽が素早く動き、甘楽の前に立ち、恐怖から動けないのだろうと思っていた男達は津軽の素早い動きに驚くものの、 圧倒的な数の有利からか、下卑た笑いをこぼす。

「…」

それでも何も言わずにいる甘楽に男達が触れられる距離に入った瞬間、1人が吹っ飛んだ。

何が起こったのかわからない男達を津軽が流れるような動きで素早く倒していき、今の状況が津軽のせいだと気付いた1人が甘楽を盾にしようと甘楽に近付くが、 いつの間にか甘楽の手中にあったナイフによって逆に切りつけられてたじろぐ。

そして、別の男の相手をしながらもその様子を視界に捉えていた津軽の様子が一変した。

それまで津軽は無表情で、何の感情も感じさせなかったが、今は明らかに怒気と殺気を放っている。

全てを圧倒的な力で破壊し尽くす静雄の動の怒りではなく、全てを凍てつかせる静の怒りを源として。

津軽の豹変に気付いた男達が逃げようとするものの、それを逃がすほど津軽の怒りは軽くはなく、普段より制御する力を抑えた圧倒的な力が振るわれる。

その後には男達が倒れているだけだった。

「すみません」

「何が?」

「甘楽さんを傷付けようとしたって思ったら止まらなくて…力…使って…」

「津軽は私の為に力を使ってくれたんでしょ?なら、責めたりしないよ」

「でも…」

「ちゃんと加減してるしね」

静雄以上の力を制御せずに使えばこの一帯どころか、男達が五体満足であるはずがない。

「それに、こういうのは静雄で慣れてるしねぇ」

「…」

「…ごめん。津軽に言うことじゃなかったね」

「…」

津軽は静雄と比べられるのを無意識に嫌がるが、静雄の事は嫌いではないらしいうえに無意識ということで、甘楽は特に何かをするわけではなかった。

ただ、なるべく比べるような事を言わないようにしていた。

「津軽」

ヒールの高いブーツを履いていても甘楽と津軽の身長差はかなりある。

その為、甘楽はつま先立ちをしながら手を伸ばす。

「甘楽さん…」

金に染められた津軽の髪に触れ、優しく撫でる。

「津軽、ありがとう」

「…」

「ありがとう」

「はいっ…」

あまり表情に変化の無い津軽の穏やかな笑みを甘楽が見たのはこの時が初めてで、甘楽と津軽の距離が近付き、接し方が変わったのもこの時だった。

それは、甘楽が津軽と会って数ヵ月が経った月の綺麗な夜の話。



2011.04.22