「おはよう、静雄」
「おう」
「今日は遅刻しなかったんだ?」
「今日は待ち伏せされなかったからな」
「ふぅん」
St. Valentine's day
他愛無い会話をしながら、甘楽と静雄は教室へと廊下を進んでいく。
静雄と甘楽の教室は離れているが、今日のように静雄が授業開始時間よりも早く来た場合は静雄の教室で話をする事が多い。
今日もそのつもりで教室へと入った2人は、いつもとは見慣れないものを見た。
静雄の机の上に置いてある色とりどりの物体。
「何だ、これ?」
「チョコじゃないの?」
「チョコ?」
「ぇ、今日2月14日だよ?バレンタインだよ?」
「あぁ、そうだったな」
完全に忘れていたらしい静雄に驚きながらも、甘楽はチョコの箱を見ていく。
「ゴディバ、ロイズ、リンツ、ピエール・マルコリーニ・・・」
チョコ以外の物も含まれているようだっが、ザッと見ただけでも本命チョコが多いと気付く。
義理で静雄に渡そうと思う人も少ないだろうと考えている甘楽の前で静雄は複雑そうな表情でチョコを鞄にしまっていく。
「・・・」
「嬉しくないの?」
「嬉しいけど、な・・・」
「・・・」
人間離れした力を持つ静雄は純粋な好意に対してどういう反応を返せばいいのかよくわかっていない。
甘楽はそんな静雄の心情を理解している。
「これってマフラーか?」
「カード付いてるよ?」
「誕生日を兼ねて…か」
「まだ寒いからねぇ」
静雄が開けた大きめな包みには手編みと思われるマフラーが入っていて、静雄はそれを首に巻いてみる。
「どうだ?」
「いいんじゃない?」
「そうか」
マフラーを包み直して鞄に入れ、残っていた大きめの包みを開けていく静雄の様子を甘楽は黙って見ているが、ふいに視線を外せば、視界に入ってくるのは
静雄の机に置かれているよりも数倍多いラッピングの山が出来ている机。
「臨也…」
「あ?」
「あぁ、違うよ、ごめん。凄い数のプレゼントだなぁって思って」
「そうだな」
内心で溜め息をつきつつ、怒りの表情を消し、静雄の声が普段通りに戻った事で、甘楽は言葉を選びながら話していく。
「静雄はホワイトデーにお返しとかするの?」
「返すもなにも誰からか殆どわからねぇよ」
差し出されたカードを見れば、確かにバレンタインのプレゼントである事などは書いてあるが、肝心の送り主の名前が書いていない。
「じゃぁ特にしないんだ」
「あぁ。書いてある奴には一応するけど…それくらいだ」
「へぇ…」
静雄はキレなければ普通に格好いいのだから、好意を寄せる女子は少なくはない。
しかし、静雄の力を見てしまえば、自然と遠巻きになっていってしまう。
そんな中で静雄にプレゼントを送り、名前を入れておくのは相当勇気がいる。
静雄はそこまで感情を細かく感じているわけではないが、一応のお礼はしている。
甘楽は静雄が人の感情に対して意外と細かいのは知っていたが、バレンタインのお返しにまで細かく立ち入ったことなど無い。
毎年臨也の大量のお返し選びを手伝う程度だ。
「本当、飽きさせないなぁ…」
「何か言ったか?」
「言ってないよ。それより今日の放課後暇?」
「予定はねぇけど」
「じゃぁさ、これ行こうよ」
そう言って甘楽が差し出したのはミルキーウェイのスイーツ食べ放題券。
「ぇ、行っていいのか?」
「いいよ。2枚あるし、こういうのは甘い物好きな人といったほうがいいし」
「本当にいいのか?」
「だからいいって。じゃぁ、授業終わったら教室にくるから、待っててよ」
「おう」
「じゃぁね」
いつの間にか座っていた静雄の隣の机から下り、甘楽は教室から出て行く。
そして、教室からは死角になっていても、中の会話を聞こうと思えば聞ける位置に立っている臨也に向かって笑う。
「甘楽」
「沢山貰ったね、チョコ」
「人望があるからね。それよりさっきの会話は何かな?」
「放課後の予定を決めてただけだけど?私の行動を制限する権利は臨也にも無いよね?」
「そうだけど、シズちゃ・・・」
何か言いかけた臨也の言葉をさえぎるように甘楽が口を開き、臨也へと近づく。
「あぁ、そうだ。忘れないうちに」
臨也の持っている紙袋の中に甘楽は何かを入れる。
臨也はその中身を確かめることなく、目の前にいる甘楽へと問う。
「チョコ?」
「臨也のだけ手作りなんだから、味わって食べてよね。じゃぁ」
ひらりと手を振り、臨也が言葉を発するよりも早く甘楽はその場から消えた。
2012.02.14
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