「臨也!!迅速果断、電光石火!!彼等を捜してくれ!」

臨也の自宅兼仕事場に転がり込むようにやってきた新羅は息を切らせながらも必死に臨也に言う。

「新羅が俺に依頼なんて珍しいね。いいよ、安くするよ。で、誰を捜せばいい?」

「彼等だ!セルティに見つかる前に見つけて連れ戻してくれ!」

目の前に差し出された2枚の写真に写る人物達を見て、臨也は一瞬固まった。


Day 0 出会い


「これって…どう見ても俺とシズちゃんにしか見えないけど、アイコラ?新羅ってこんなの作れたんだ」

「違う。これは津軽とサイケ。君達とは違う」

「どこからどう見ても…」

「これは僕が創ったアンドロイドだ」

「アンド…ロイド…ははっ!あはははは!!新羅っ、面白い嘘をつくようになったじゃないか!あははははっ…」

ツボに嵌ったらしく、腹を抱えて笑う臨也に、珍しく余裕の無い新羅は苛々しながら少し語尾を強める。

「だから本当だって!直ぐに捜してくれ!大体、後で困るのは君達なんだよ?」

「後?」

「サイケと津軽は君達そっくりに創ってある。何かあれば全て君達だと思われる」

「それは本当に存在してたらの話だろ?」

「臨也っ!!」

「はぁ…わかったよ。で、俺はどこを捜せばいい?」

新羅の珍しい様子に笑うのを堪え、臨也はパソコンへと向かう。

「池袋。彼等は池袋以外行かないはずだから」

「リアリティ高いなぁ」

臨也は軽口を叩きながらも視線は画面を捉えたまま、素早くキーボードを叩いていく。

「…臨也、真面目に捜してるのかい?」

「捜してるよ。でも、いくら捜したっているはずがな…ぃ…」

「どうしたんだい?」

「そんなバカな。どうなってる!?」

「臨也?」

「どういうことだ?」

新羅の言葉に耳を貸そうとせず、今までとは比べものにならないようなスピードでキーボードを叩く臨也を新羅は黙って眺める。

「新羅、どういうこと?」

「何がだい?」

「正直俺はさっきまで新羅の言葉を信じてなんていなかった。でも、現在の池袋の監視カメラの映像を見たらコレだ」

そう言って臨也はパソコンの画面を見せる。

そこには臨也と静雄が映っていた。

「津軽、サイケ!」

新羅の言葉に臨也は表情を歪める。

「君が俺の言った言葉を信じなかったのが悪いんだよ?」

「普通アンドロイドとか言われて信じないだろ」

「まぁ、君は信じないだろうね」

「普通なら誰も信じないよ」

「臨也が普通だとは思わないけどね」

「…これからどうするんだ?」

「勿論、津軽とサイケを連れ戻すよ。セルティに見つかる前にね」

「さっさとしてくれ」

「そうできるならね」

「?」

「…」

「新羅?」

「手伝ってくれ」

「何で俺が」

言われた言葉の意味がわからず、新羅から外していた視線を戻しても新羅の本気が伝わるだけで、臨也は軽くため息をつく。

「津軽とサイケには少々難があってね。僕の言う事をきかない場合もあるんだ。でも、津軽なら臨也の言う事を聞くと思う」

「何で俺?」

「会えばわかるよ。とにかく早くしてくれ!」

「わかったよ。俺としても自分そっくりの奴がいたら気持ち悪いしね」

この事態を収拾するためには仕方が無いと考え、臨也はファーコートを手に取ると新羅と共に池袋に向かった。


「何だ、てめぇ」

「津軽だ」

「津軽ぅ?」

「津軽…」

「大丈夫だ、サイケ。俺は負けねぇ」

池袋の自動喧嘩人形とまで呼ばれている静雄は、眼前の光景に怒り心頭だった。

数分前、池袋の街で静雄は天敵である折原臨也を見つけ、普段と違う格好であることなど全く気にもとめず、攻撃する為に臨也に近付いた。

臨也は静雄を見て逃げる事も、得意のナイフを出すこともなく、ニッコリと邪気の無い笑みを浮かべた。

それにより、殴りかかろうと振り上げていた静雄の右手は無意識に止まる。

全身に鳥肌が立ち、思わず臨也から1歩距離をとる静雄に臨也は首を傾げ、ゆっくりと近付く。

「くそっ…」

普段と違うから何だ。

相手は折原臨也だ、と静雄は自身に言い聞かせ、再度殴りかかる。

しかし、静雄の拳が臨也に当たることはなかった。

何者かが臨也の腕を引き、静雄の拳は空を切る。

その人物を見れば、それは着物を着流し、キセルを持った静雄とそっくりの人物だった。

「津軽って何だよ、津軽って」

「俺の名前だ。それより、サイケに何しようとした?」

「あぁ?そこのノミ蟲をぶっ潰そうとしたんだよ!」

「サイケを…」

「津軽、危ない…」

「俺は大丈夫だ」

「でも、万が一津軽が怪我でもしたら俺…」

「俺を心配してくれるのか?」

「そんなの当たり前だろ。だって津軽は俺の…」

「うわぁ、キモッ」

「「「!?」」」

3人に浴びせるように言われた言葉に、3人は声の主を探す。

「津軽、サイケ!大人しく戻るんだ!」

「マスター」

「マズいよ津軽、バレちゃった」

新羅の言葉に、津軽の着物を握りながらどうしようと囁くサイケを護るように津軽は自分の後ろにサイケを隠す。

「私は君達の…」

「新羅ぁ!こいつらはテメェのしわざかっ!!」

「ぐぇっ…」

津軽とサイケに向かってくる新羅は、2人に辿り着くよりも前に静雄に白衣を掴まれて変な声をあげる。

「こんなわけわかんねぇもん作りやがって!!」

「ちが…違うんだ静雄。兎に角僕の話を聞いてくれ」

「うるせぇ!」

新羅の言葉を聴く気配を一切見せない静雄がら少し離れた場所にいる津軽とサイケの前に立ち、臨也は尋ねる。

「さて…津軽とサイケ…だっけ?君達は自分というモノの認識はあるのかな?」

「「?」」

「君達は新羅に創られたアンドロイドなんだろ?その自覚はあるのかって聞いたんだ」

「俺達は欠陥品だ」

「欠陥品?新羅、どういうこと?」

やっと静雄から解放された新羅はげほげほとむせながら津軽とサイケを見る。

その視線にも怯むことなく津軽は新羅を見返す。

「津軽とサイケはとある目的の為に、ある存在の為に在らなければならないんだ。なのに青天霹靂!彼等はお互いが1番大切だと認識している」 「ぇ?」

「何故か津軽とサイケはお互いに依存し、お互いのために在るようになってしまったんだ」

「意味がわかんねぇ。それってどういうことだ?」

「ちょっと待ってよ。それって中身は違っても、外見は俺とシズちゃんが…」

「臨也の考えで間違ってないと思うよ」

臨也は新羅の言葉に嫌悪感を露にしながらサイケの腕を引く。

「サイケ、こっちに来い!お前は俺が引き取るから」

「嫌だ。俺は津軽がいい」

首をぶんぶんと横に振り、サイケは嫌がる。

その様子にも、言葉にも更に苛立ちを募らせる臨也と同様に、静雄もサイケの言葉に驚きながら津軽を呼ぶ。

「津軽、お前はこっちに来い」

「ぁ…」

「津軽、行かないで」

「っ…」

静雄の言葉とサイケの言葉にどうするべきかを悩む津軽に追い討ちをかけるように静雄が叫ぶ。

「来いっ!!」

「臨也、津軽、僕を放置して勝手に話を進めないでくれ」

そんな喧騒の中に新羅は割って入る。

「持て余してるんだろ?言い値で買うよ」

「それはそれで困るんだよ。私はあくまでも手放す気はないんだ」

「じゃぁどうするわけ?」

「う〜ん…」

どうしようか…と言いながら考え込む新羅をよそに、津軽とサイケはぴったりとくっついている。

臨也はそんな津軽とサイケを意図的に視界から排除し、何も言わない静雄に矛先を向ける。

「シズちゃんも何か言ったら?何で黙ってるのさ」

「ぁ、あぁ…」

「…そうだ!サイケは静雄の所に、津軽は臨也の所に暫く行くんだ」

「ぇ?」

「は?」

「何言ってんだ?」

「…」

いかにも妙案だ!と言いたげな新羅だったが、臨也と静雄にとっては聞き流すことも、容認することも出来ない言葉だった。

「それがいい。君達は近すぎるからいけない。オリジナルを見て本来の君達を思い出してくるんだ」

勝手に話を進める新羅を止めようとするが、新羅は止まらない。

「津軽と離れるなんて嫌」

「俺だって…」

「マスター命令だよ」

「「っ…」」

「じゃぁ静雄、臨也、頼んだ…」

新羅が喋りながら背後を振り返るが、言葉は鬼のような形相の2人の姿によって最後まで続けることは出来なかった。

「冗談じゃねぇ。俺は嫌だ」

「俺も嫌だよ。何でシスちゃん顔を俺の家に入れないといけないわけ?人間ならまだしも、アンドロイドだって?反吐が出るよ」

「そこを何とか頼むよ」

「「嫌だ」」

「仕方ないか」

「わかったならさっさと…」

いったんため息をつき、新羅は臨也を再度見る。

「臨也、津軽は静雄に近づけて創ってあるんだ」

「だから何?」

「君、今結構危険な状況なんだってね」

「…何で知ってる?」

「これでも裏社会のお得意様は多いからね」

「…」

「津軽がいればいざという時頼りになるよ。静雄より強いはずだからね」

「シズちゃんより?」

「うん」

「…わかったよ」

諦めたように臨也が答えれば新羅はにっこりと笑う。

「よかった。静雄はどう?サイケを預かってくれるかい?」

無言のまま自身を見つめるサイケを一瞬見た後、静雄は口を開く。

「こいつは蚤虫とどう違うんだ?」

「まず、性格が違うね。サイケといても苛々する事は無いと思うよ。家事全般は出来るし、一般常識もある。いても害は無いよ」

「…」

「まぁ、臨也の顔をした家政婦とでも思ってくれて構わないんじゃないかな」

「本当に害は無ぇんだな」

「うん」

「ムカついたら殴っていいか?」

「ダメだよ!サイケが壊れるから!」

「ちっ」

「ダメだからね!」

念を押すように再度繰り返す新羅に静雄は渋々頷く。

「わかったよ。何かしたら直ぐに放り投げるからな」

「ぅ、うん」

ギロリと静雄に睨み付けられながら言われ、サイケは恐る恐る返事を返す。

「これで決まりだ!じゃぁ2人共、僕が迎えに行くまで津軽とサイケを頼むよ」

こうして奇妙な共同生活が始まった。







2012.07.07